魔法の食パン

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 三宅はひょんなことで知り合った香織の不倫相手だった。昨夜、香織に確認したところ三宅は一年ほど育休を取る予定らしいと聞いている。ただそれは香織が在職中の話であり、仕事を辞めた今はどうかわからないとも言っていた。  突然電話したにもかかわらず、香織は三宅が何かしたのか聞かなかった。普通なら何かしたのかと下世話な勘繰りをしてしまうところだが、香織は御園の問いに答えるだけだった。不倫相手であった三宅に未練がないのに加え、弁護士になるべく司法試験の勉強をしている身としての倫理観をしっかりと身に着けているようだ。 「真利亜さんの話を聞きたいんですよね」  どう切り出そうかと御園が逡巡していると、優樹菜が先に口を開く。その顔には自虐めいた嘲りの表情が浮かんでいる。  モデルのMALIAこと真利亜に優樹菜は憧れていたはずだ。その優樹菜がなぜ自虐的な表情をするのか。真利亜と優樹菜の間に何かがあったのだろう。そうでなければこんな表情はしないはずだ。  それが吉と出るか、凶と出るか。 「ええ、話していただけますか」  御園が促すと優樹菜は頷き、一度深呼吸をしてから口を開く。 「私はモデルのMALIAちゃんに憧れていました」 「インスタにMALIAさんとの写真、あげられてましたよね」 「はい。MALIAちゃんを偶然見かけて、ダメもとでお願いしたら撮ってもらえました。モデルになってMALIAちゃんと一緒にパリコレに出たいなんて、中学生の夢みたいな話にしっかり耳を傾けてくれて。……とても優しい人だった」  優樹菜の顔に嘲りの表情はない。目をキラキラさせてMALIAとの思い出を語るのは、憧れのモデルの話をする少女のようだ。そんなふうにMALIAを語れる優樹菜が、なぜ先ほど嘲りの表情を見せたのか。  自分を嘲るとして考えられるのは、若い頃の軽率な行動だ。未成年の飲酒、喫煙または薬物に女の子なら売春か。
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