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プロローグ
学歴不問、誰にでもできる簡単な仕事?
『誰でもいいって言っても、信頼関係って大事だろ? 一から信頼関係を作るよりも、おまえなら気心も知れてるし信頼関係ありまくりじゃん? オムツ交換してやったの、俺だし』
「いやいや、さすがにオムツ交換はしてもらってないから」
笑い声混じりに、たもっちゃんに反論する。たもっちゃんは近所の兄ちゃんだ。昭和の時代ならともかく、子どもが近所の赤ちゃんのオムツ交換をするはずがない。
『どっちでもいいんだけど、そういう関係じゃん?』
「まあ、そういうね」
少なくとも夜中に電話できるくらいには。最後に会ったのは五年前、東京に行ったたもちゃんが成人式のために帰って来たときだ。そのとき連絡先を交換して、互いに今まで連絡を取り合うことはなかったけれど、一度連絡を取ればこうしてすぐ子どものころのような距離感で話ができる。
たもっちゃんは近所で一番ゲームがうまくて運動も得意で、いつもみんなの中心にいた。俺はそんなたもっちゃんが憧れで、いつも一番年下なのに金魚の糞みたいについて歩いていた。そのたもっちゃんから直々に仕事の依頼だ。喜ばないわけがない。
『職場は東京、住むところは用意してあるから身一つで来いよ』
「え、いいの?」
『ただ住むところがあるってのにつられて、人が集まるの早いから。俺の権限で今週いっぱいなら待てるけど、どう?』
「今週いっぱい……」
カレンダーもなければ手帳もない部屋で、脳内にスマホのカレンダーを思い浮かべる。確か今日は――日付が変わって――月曜日だ。フリーターの予定なんてたかが知れている。バイトか家で寝るかだ。
『おまえ、いつまで田舎でくすぶってるんだよ。男だろ、ビッグになってみろよ』
「たもちゃんみたいに?」
『そうだよ! 夜景の見えるタワマンに高級車、アルバイト生活では見れない世界だよ』
「俺には無縁っぽいなあ……」
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