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私には秘密がある。
私は、話せない。
言葉にして自分の意見を話せない。否定されてしまうのが恐いから。私は、話せなかった。
それでも言葉を発することはできる。むしろ、小さいころはおしゃべりな子だった。
小さいころのことと言えば、あの河川敷にいたおじいさんと歌うことが好きだったことだ。いつもうるさいと言われる私の声を、彼は褒めてくれた。私の声をきれいだと言ってくれた。私の歌を聞くといつも嬉しそうにしてくれた。名前も何も知らない人なのに、私のことを認めてくれた唯一の人だった。
それから、数年経った。私は、小学生になった。私は、言葉を発せられなくなっていった。なにを言っても否定されるのではないかと言う恐怖に支配されていた。私は、普通に話すことさえもできなくなっていた。
そんな時は、あの河川敷に行った。おじいさんが私にとっての唯一の話し相手だった。それから、おじいさんと歌っていた。それが一番の幸せだった。
ある日、いつものようにあの河川敷に行くとおじいさんの姿がなくなっていた。それは、とても悲しい出来事だった。ついに、おじいさんからも見放されてしまったのだと思った。その自分の気持ちを誤魔化すように歌っていた。歌っていると、おじいさんの声が聞こえてきた。気のせいかもしれないけれど、私の歌を認めてくれている気がした。
私は、歌った。誰もいないこの場所で歌っていた。言葉にリズムやメロディーをのせれば、こわくなかった。こわいとおそれる気持ちより、歌うことが楽しかった。
もし、この声でいつか誰かを助けることができたなら。私は、そう願いを込めながら歌うようになっていった。
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