はじまりの朝

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「もし、気が変わったらアイドルちゃん達のデータをここのアドレスに送ってよ。悪い様にはしないからさ」 「悪者のお誘いにしか聞こえないんだけど」 「まあまあ、考えてみてよ」 「うん」 「ユーキくん、大事にするね」  プレゼントしたユーキのアクリルスタンドを嬉しそうに動かした。 「何か、嫁に出したみたい」 「婿じゃないんだ」  美香がケラケラと笑う。 「東京に行ったら遊んでね」 「うん、連絡して」   「そっちもね。じゃあ、またね。アイドルちゃんたちも」    美香は名残惜しそうに何度か振り向いて手を振った。私もその都度手を振り返して、胸が苦しくなった。私はこういう別れが苦手で、誰にも引越しの事を言いたくなったのだと気づく。 「帰ろうか、アツヤくん」    アクリルスタンドをバッグにしまう。引越しの前に美香に会って良かったと思う反面、別れを寂しく感じる自分に戸惑っていた。それは、美香の方も同じだったかもしれない。
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