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1 感覚
「ごめん。別れたい。」
今日言おうと決めていたデート帰り。
いつものように私の家まで送ってもらった。
駐車場に着いて、やっと言葉が出た。
あんなに切り出し方や話す内容を考えていたのに
決心して出た言葉は淡白だった。
約1年付き合った彼氏、長束陸は3歳上の28歳。
初めは結婚も考えていた。
この人なら結婚できると思っていた。
思ってたんだ…。
「最近、華ちゃんからの連絡も減ってたし、
今日言われるのかなって。薄々、感じてたよ。」
言いながら
陸の声が震えていた。
見ると、赤くなった目から
涙が流れた。
なんだかいたたまれなくなった。
「ほんとにごめん…。今までありがとう。」
明日は2月14日。
バッグの一番下に入れていた、
今までの感謝と区切りの気持ちを込めて買ったバレンタインチョコレートを渡した。
「本当は…別れたくないし、悲しい。
けど、もう……無理なんだよね……?」
30手前にして涙を流す彼に対して
本当に本当に申し訳ない気持ちと同時に
少しひいてしまった。
その感覚で、
やっぱりもう無理なんだ、と確信した。
「……ごめん、陸くんのこと嫌いとかじゃない。でも、異性として好きって気持ちが…そういうのが感じられなくなっちゃった。」
本心だ。
「きっと私じゃない。他の誰かと幸せでいて欲しいと思うよ。」
少し綺麗事だ。
正直もう、幸せになってほしいとか
そんなのどうでも良くなっていた。
それほどまでに気持ちは冷めきっていたんだと思う。
嫌いではない。
でも、好きではない。
特に異性としては
スキンシップすら抵抗を覚えるほどにはなってしまっていた。
なんでだろう。
人間の感覚って、なんなんだろう。
最初は確かに好きだったはずなのに。
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