1 感覚

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「…分かった。ごめん。荷物持って帰る。」 そう言われて、 車を降りて一緒に部屋に向かった。 私の家に泊まることが多かったから 陸の物が少し私の家に置いてあるのだ。 階段を無言で上がる。 鼻をすする音が聞こえる。 ……まだ泣くのか。 自分はなんて冷たい人間なんだと思いながらも 少し呆れてしまう。 鍵を開ける。 実は昨日、荷物を全部まとめておいたんだけど 用意周到な感じがなんとなく気まずいなと思った。 まとめた荷物が置いてある、玄関から1番近い部屋に入る。 脱衣所や浴室にあったものを入れた紙袋を見て 「……あ…。」 陸は小さく声を漏らして、 一瞬固まった。 やっぱり、まとめておくべきじゃなかったのかな……と思いつつも、 もう別れたんだしいいか。 「たぶんこれで全部。」 私が言うと 「ありがとう。 何か残ってても、捨てちゃっていいから。」 とだけ言われた。 荷物を持って、そのまま玄関先へ。 「じゃあ。」 「うん。元気でね。」 それだけ交わすと、 陸は振り返らずに車に向かって行った。 いつもは下まで一緒に行って 車が見えなくなるまで見送っていたが もうそれはしない。
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