第13話『お二人は『魔王』という存在を聞いた事はありますか?』

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第13話『お二人は『魔王』という存在を聞いた事はありますか?』

流石に真っすぐヘイムブル領へ向かうのは危険だと判断して、寄り道をしながら進んでいた私たちだったが、ふと気になる事があり、私は二人に聞いてみる事にした。 「お二人は歴史上から消されてしまった存在というのはご存知でしょうか?」 「歴史から消された存在……?」 「……いや」 なんだろう。二人の気配が少しだけ怖くなった様な? いや、気のせいか。 まばたきしていたら、いつもの雰囲気に戻っていたし。 「ちなみにどんな奴なんだ? ミラ」 「え? あ、はい。そうですね。お二人は『魔王』という存在を聞いた事はありますか?」 「魔王?」 「いや、知らん」 「そうでしょう。そうでしょう。この魔王こそ、歴史から消されてしまった伝説上の存在なのです」 「ほー」 私はコホンと咳払いをしてから、改めて語り始めた。 「実はですね。この魔王なる存在は聖女オリヴィア様が全盛期の時代に現れた、それはそれは恐ろしい存在なのです」 「聖女オリヴィア?」 「あー。そうですね。聖女オリヴィア様もあまり有名では無い方でしたね。うーん。何が悪かったんでしょうか。やはりタイミングですかね。先代の聖女様がアメリア様で、次代の聖女様がイザベラ様という、素晴らしい方々ばかりなので、オリヴィア様はあまり目立たないんですよね。あ、ちなみに! その時代に初めて『勇者』という方も生まれたんですよ! 勇者ルーク様という方です。ですが、この方、後々その勇者という称号を剥奪されているんですよね。いったい何があったのか」 「ろくでもない奴だったんじゃないか? 何か偉業を成してから、俺は勇者だぜって暴れたとかさ」 「オリヴィア様の手記を見る限り、そういう方では無いように思うのですが……」 「なら当時の世界にとってよっぽどその勇者ルークが都合の悪い存在だったかだな。適当な罪とかでっち上げて、称号を剥奪したんだろうぜ」 オーロさんの言葉に私はなるほどと言いながら、それでも不思議だなと頭を捻らせた。 だって、勇者ルークに関する記述はその殆どが勇敢さを称える物であり、彼が何かをしたような事は書かれていない。 聖女イザベラ様だって、勇者ルークの事を素晴らしい人格者だって書いているくらいだし。 んー。この辺りの時代も謎が多いんだよなぁ。 「後は、勇者ルーク自体がその名を捨てたか。だな」 「名前を、捨てた?」 「そうだ。ヤマトでは数年に一度、全国民を集めて行う奉刀祭という祭りがあるんだがな。そこで俺たちは互いの技術を競い、斬り合い最強を決める。そして参加した者の中から上位十二人がヤマト国守護刀十二刀衆となって、国を支えるのだが、その時、その名誉を受けない者もいる。それは同じ家の者が既に選ばれていたりとか、もう先が短い等もあるが、その中に、国の為、名もなき侍として征く為に、名を捨てる者がいる。その勇者ルークも同じ様な事をしたのでは無いだろうか」 「国の為、世界の為か。まぁ分からなくはない話だ」 「……」 シュンさんの話に、オーロさんが頷き、私は思わず呆然としてしまった。 ヤマトにはそんな物があるのかと。 シュンさんが言っている名を捨てるというのは、どこまでを含むのか分からないが、恐らくは全てなのだろう。 真実どこの誰とも分からない存在となって、戦い、国の為に、命を捨てる。 いっそ恐怖すら覚えてしまう行動だが、どこか共感できる所があったのも確かだ。 世界の為に個人である事を捨てるというのは。 「ちなみにシュン。お前はその祭りで一番強かったのか?」 「いや、俺は二番だ。故に『如月』を持っている」 「ほー! お前が二番かよ。一番はどんな化け物だ」 「神藤時道。俺の幼馴染で、生涯の好敵手だ」 「なるほどな。良い関係じゃ無いか」 「……お前には、そういう相手はいないのか?」 「あー。俺か。残念だが俺には居ねぇな。まぁ、しいて言うなら生意気な弟分が二人くらい居るけどよ。俺にはまだまだ遠いな。ヤマトなら聞いた事あるんじゃねぇか? アレクシスって奴と、ヴィルヘルムって奴だ」 「確か運び屋だったな。何度かヤマトに来た事がある」 「ほー。運び屋か。面白い仕事をやってるんだな。元気だったか?」 「あぁ。ちょうど祭りの時でな。ヴィルヘルムが参加していたぞ。十二刀衆になるまで勝ち残っていたが、ヤマトには住めないと断っていた」 「ワッハッハ。そうかそうか。元気そうで何よりだ」 「……」 私は紅茶を飲みながら楽しそうに話す二人を見て、思わず私まで楽しくなってしまった。 本当は魔王の話をしようと思ったけれど、二人の話を聞いているのも凄く楽しい。 「おっと、すまねぇな。盛り上がっちまった。話の続きを聞かせてくれよ。ミラ」 「いえ。今日はお二人の話を聞かせてくれませんか? 私はそれが聞きたいです」 「……そうか。なら、どうする? シュンから行くか?」 「あぁ、分かった。では、そうだな。俺は歴史などは詳しくないから、友人の話をしようか」 「お友達ですか?」 「そうだ。さっきの時道とは違う友人だな。名を宗介、和葉という。二人は俺と時道の様に、幼い頃からずっと一緒でな。成長と共に、自然と男女の仲になり、恋人となった。しかしだ。ヤマトという国は少々面倒な国でな。恋人としては誰と付き合おうが構わないが、結婚となれば家が決めた相手と結ばれなくてはいけないという決まりがある。そして、宗介と和葉は家こそ釣り合っていたが、互いに長男、長女であった事が災いし、結ばれる候補にはなれなかった」 「長男と長女では何が駄目なんでしょうか?」 「神刀の問題だ。ヤマトでは名のある家は代々決まった神刀を受け継ぐのだが、宗介も和葉も宗家であり、最も力のある刀を受け継いでしまっていた。そうなれば、次代の子供をどちらの家の子供とするのかが問題となってしまう。どの家も優秀な子供は欲しいからな」 「お二人は優秀過ぎたという事ですね」 「そうだな。本来は良い事なのだが、ヤマトにおいては難しい問題という訳だ」 シュンさんの言葉に私はなるほど、と言いながら自分の婚約者候補の事を思い出していた。 とても真面目で、優秀で、善き王になる事は分かっているのに、私への愛情が変な方向へと向いてしまう方。 嬉しいのに、それをただ喜べないのは、私が将来は聖女にならねばならないからか。 あの御方に相応しいと思えないからか。 「なるほどな。だが、そのまま、はいそうですか。と終わった訳じゃないんだろう? お前も、その友人とやらも」 「まぁな……まぁ、実際にそうなのだが、よく分かるな」 「話をしてればよく分かる。お前はそんな聞き分けの良い性格には見えんし、そんなお前と友になるのならば、同じ様な人間だろう」 「うむ。そうだな。オーロの言う通りだ。俺たちはそんな家の都合など知るかとまず和葉の家を襲った。和葉は親に意見をして家の奥に閉じ込められていたからな。潜入した」 「正面からか?」 「あぁ。話し合いの結果そうなった」 「ワハハハ! 潜入なのに正面突破とは! 中々に愉快な連中だ! しかもそれで上手く行ったんだろう?」 「あぁ。和葉の家は大混乱となり、その隙に和葉を攫おうとして、和葉の部屋で宗介と戦闘になった」 「えぇ!? 宗介さんって、えぇ!? どうしてですか!?」 「実は宗介も和葉の家に侵入していてな。賊が出たという事で、和葉を護る為に、宗介が立ちふさがったのだ。まぁ、互いの正体はすぐ分かった為、それ以上戦う必要は無いのだが、戦いは再び始まってしまった」 「えぇぇええ!!?」 「理由は簡単だ。時道が、お前も大人しくしていれば助けに行ってやったのにと言ったせいで、宗介が怒り戦闘となった」 「フフフ。どうせ、アレだろう? お前らに助けられなきゃいけない程弱くねぇとか。だろう?」 「あぁ、その通りだ。まぁ、この辺りは分かりやすいか」 いや、全然分かりませんけど!? まーったく意味が分かりませんけど!! 「という訳で、時道と宗介は家を破壊しながら決闘をしており、その隙に俺たちは和葉を連れて家から逃げ出したのだった」 やり方……! やり方が乱暴すぎる!
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