第7話『君が今代の聖女か。アメリアの子だね。つまりは私の子だ』

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第7話『君が今代の聖女か。アメリアの子だね。つまりは私の子だ』

あまりにも楽しくなりすぎてしまい、ミュービーの群れに飛び込んだ私だったが、襲われそうになってしまった。 「魔物とは怖い生き物なのですね」 「当たり前だろう」 「討伐の依頼があるのは別に伊達や酔狂じゃないんだぞ」 「はい……学びました。本ではミュービーは比較的おとなしいと書かれていたのですが、大人しくても巣を護るためならば、戦うという事ですね」 私は遠くからミュービーたちを見ながらうんうんと頷いた。 そして、走ったせいで荒くなった呼吸が落ち着いたのを確認してから、オーロさんとシュンさんにこれからどうしましょうと尋ねる。 「これからか。何も無いのであれば、目的を果たしたいがな」 「俺もオーロと同じ意見だ」 「ううむ。そうですか。どちらにしてもそれほどせずにお姉様が森へ追ってくるでしょうし、まずはここから離れて……北へ向かいましょうか。リヴィアナ様の封印書庫も、神刀がある場所も共に北の方ですから。まずは封印書庫ですね」 「分かった」 「では、まずは北だな。二人とも掴まれ。転移するぞ」 「あ。オーロさん。少々お待ちください!」 「ん? どうした」 「転移する場合、まずは王都に転移しましょう。直接北へ向かった場合、目的地がバレやすくなってしまいます。追跡をかわすなら、人が多い場所に転移してから歩いて向かう方が確実です」 「確かにな。ではそうするか」 オーロさんは私とシュンさんを連れて王都の外れに転移した。 それから私はいつもの様にメイラー伯爵令嬢として王都へ入り、身を隠すためのフード付きのコートなどを買うのだった。 王都から領地までは半日ほどかかるし、まずは転移先の追跡をするだろうから、王都への捜索部隊が来るとしても明日以降だと思う。 そこで、私の無事を伝えれば良いわけで……。 「居たぞ!! ミラ様だ!!」 「へ?」 「おいおい。騎士共が集まって来るぞ」 私はオーロさんに抱き上げられ、そのまま騎士さん達から逃げる様に王都を走る。 そして、騎士さん達の行動に僅かな違和感を感じながらも、オーロさん達と一緒にどうやって逃げるべきか、考えるのだった。 でも。 「おい。オーロ。どう思う?」 「どうもこうも。誘導されてるな。強行突破は可能だが……」 ふと二人が私を見ている事に気づいた。 なんだろうと首を傾げると、二人は溜息を吐きながら呟く。 「だから子供は苦手なんだ」 「そうだな」 私は何だかよく分からないが、お荷物扱いされている様な気がして、フンスと息を吐いた。 「私、自分で走れます!」 「馬鹿を言うな。大人しくしていろ」 「そうだ。付いてくる事も出来んだろう。お前は」 「……う、うぅ。確かに、そうですが」 「これから先に、ミラしか出来ない事は沢山あるんだ。こういう時は大人しくしておけ」 「っ! 私にしか、出来ない事……! はい! 分かりました!」 私はキュッと体を小さくして、オーロさんにしがみ付く。 なるべく邪魔にならないようにだ。 しかし、そんな私の行動も虚しく、私たちは大きな壁に阻まれた城壁の端に追いやられてしまう。 周囲には多くの騎士さん達が、怖い顔で私たちを睨みつけていた。 そして、その奥から現れたのはセオドラー王太子殿下と……お兄様であった。 「殿下! それに、お兄様!?」 「あぁ、久しいね。ミラ。愛しのミラ。会いたかったよ。出来れば、こんな形ではなく……ね」 「だから言ったのだ。早く婚約をして王宮に住まわせるべきであると」 「セオ。前にも言ったけどね。ミラを護るという意見には賛成だけど、可愛い妹を君に渡す事を許可した覚えはないよ」 いつもの様に言い合いをする二人を見ながら、私は何とかこの場から逃げる方法はないかと考えていたが、やはりというべきか。布陣に隙が無い。 いくらオーロさんやシュンさんが凄く強くても、私が居ては上手く戦えないだろうし。騎士さんだって百人以上集まっているのだ。 しかも近衛騎士団の騎士団長。ガーランド様まで居る。 なんで、こんなに全力なんだ! 「何か良い手はあるか? オーロ」 「無くはないが、ミラが居ては難しいな」 「そうか。なら……」 「あの。オーロさん。シュンさん。私を人質にするというのは如何でしょうか? 一応伯爵家の娘ですので、それなりに人質価値はありそうですが」 「「お前は黙ってろ」」 「……はひ」 何でだ。名案だと思ったのに。 なら、交渉でどうにかしようと私は声を上げた。 「お兄様! 殿下! 何故この様な所に!」 「君が誘拐されたとメイラー伯爵から聞いてな。急ぎ人を集めたのだ! 当然だろう! まぁ、誘拐というには少々違う様だがな」 「ミラ! その人たちは危険だ。離れなさい。ほら。お兄様の所は安全だから。ここへ帰って来なさい!」 「そんな、こんな早く連絡が王都まで来るなんて……転移魔術の使い手は、伯爵家には居なかったハズなのに」 「ポータルを使ったんだ。ミラ」 「ポータル!!? まさかこんな事の為に使ったのですか!?」 私はお兄様の答えに思わず大声を上げてしまった。 ポータルとは設置型の転移門の事で、荷物や人など、転移門が置かれている場所同士を転移魔術で移動する事が出来る、大賢者ドラスケラウの発明だが、使う為には膨大な魔力が必要なため、緊急時以外は使えないハズなのだ。 「こんな事ではない!! 君が奪われたのだ。陛下もすぐさま許可を出したし。国連議会も君の保護を特定依頼としてギルドに……」 「へぇ。世界国家連合議会か。未だに聖女を諦められないみたいだね。不愉快だな」 殿下の言葉に反応して、どこからか冷たい声がする。 その声は、それほど大きな声では無かったのに。何故かハッキリと耳に届いた。 そして、いつの間にか。私と殿下たちの間に、小柄な女性が立っているのだった。 「レーニか」 「瞬。緊急事態が起きたらすぐに呼べって言っておいただろう? 楓が教えてくれなければ、また議会の連中に奪われてしまう所だった」 「この程度」 「俺なら問題なく切り抜けられるって? 馬鹿を言うな。お前やそこの鎧は無事だろうが、聖女は女の子なんだ。か弱い。無茶をさせるな」 「……分かっている」 「なら、良いけどね」 その、まるで人形の様に整った顔立ちをしたたれ目の女性は、どこか気だるい雰囲気を見せていたが、私を見て、少し笑う。 不器用な人が誰かを笑わせようとする様に。 「君が今代の聖女か。アメリアの子だね。つまりは私の子だ」 「……? えと?」 「気にするな。レーニは少々頭がおかしいんだ」 「失礼だな。瞬。まぁ、良いか。ゆっくりと話をするのは後にしよう。まずはここから脱出する」 レーニさんはやはりと言うべきか。その種族特有の高い魔力で騎士さん達を吹き飛ばし、魔力を制限されている筈の王都で私とオーロさん。シュンさんを空中に浮かせる。 「瞬。間違っても抜くなよ」 「分かっている」 その言葉に私はハッとしながら、シュンさんの腰を見て、神刀が鞘に収められている事を確認し、例の魔力を弾くという特性は、その刃だけの特性なのだなと頷いた。 「ま、待て! 逃がすな!!」 「レーニ? レーニ・トゥーゼか!! いかん! ミラ! その女を信用してはいけない! そいつは幾人もの聖女を誘拐した危険人物だ!! ミラ!!」 私はお兄様の言葉にハッとなりながら、その特徴的な耳と青白い肌を持つ女性に目を向ける。 歴史書に何度か名前が出てきた人物。 近年になっては、その悪行によって名前が刻まれている人物だ。 『レーニ・トゥーゼ』 永遠の時を生きると言われるエルフという種族の存在でありながら、エルフではなく人類と共に生きてきたと言われる方である。 まさに歴史の生き証人という訳だ。 「さ、行くぞ」 「ミラ!!!」 そして私は、お兄様の叫び声を背に受けながら、オーロさんやシュンさんと共に空を飛んで、北の方へ向かうのだった。
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