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そして、人気がない非常階段付近につくと足をとめ、振り返り設置してあるダストボックスの蓋を外した。
その後の行動は、見てる人がいたならば口を開けて驚いただろう。
男の子は中のゴミを掴むと、そのままガブリと口に入れたのだ。
咀嚼音が男の子の口の中から聞こえる。
まるでそれが当たり前のように平らげている 。
「わぉ。……そんなことってあるんですか」
悪食を体言する男の子の後方で、その一部始終を見ていたのは男の子が先程ぶつかった女性。ありえないと呆気に取られていたが、はっとした表情を浮かべると慌てて男の子に駆け寄った。
「だ……駄目っ! 駄目です駄目です! ペッしなさい! ほらペッ!」
屈んだ体勢で男の子の背中をトントンと叩くが、不可解な事にこの少年はゴミを食べたのに異変を訴えている様子はない。
この小さな身体の何処に、そんな常識に逸脱した行為を促すようなことが起こるのか。
「えっと、あの。……一体お父さんやお母さんはどうしたんです?」
女性はさも当たり前のように尋ねて、そんな彼女に冷めた……何も映さない目でゴミを一心不乱に食べていた男の子は、その言葉を言われた時、目の色が変わった。
悲しそうに歪められた顔は、先程の冷めた目ではなく“感情のある目”で。
だが、それも一瞬ですぐに何も映さない目になった。
能面、その言葉が似合う顔。
そんな顔で、男の子は平然と女性に返事をする。
「ぼたん……おとうさんもおかあさんも、いないよ」
抑揚のない声。
幼い声。
そんな声で、“ぼたん”と口にした男の子は棒読みのように、まるで台詞のように言葉を発する。
「しんじゃった。ぼたんのかぞく……だれもいない」
悲しいとか、寂しいとか……そんな感情はなく。
ただ、淡々と生気のない目で女性に告げた。
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