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「ぼたん、……ぼたん君でいいのでしょうか。とりあえずほら、ゴミを食べるだなんて衛生観念的に見ても非常によろしくないですよ! あ、衛生観念っていうのはね所謂……じゃなくて、ああもうっ!」
一人慌てる女性は一度深呼吸をしてしゃがみこみ、ぼたんに目線を合わせる。
焦茶のロングを一つのおさげにして、丸メガネをかけている160cmほどの身長の女性はにこりと微笑み、名乗る。
「ええと、私は羽生美奈といいます。これでも警視庁に勤めていまして。一緒にきませんか?」
差し出される手。ぼたんはジッとそれと美奈の顔を見比べる。そしておずおずとその手を取った。
それを見て美奈は安堵して、ぼたんの名を問う。
ぼたんは、ゆっくりと口を開いた。
それはまるで、名を名乗るというよりも、罪を告白するような……。
「いちじく……いちじくぼたん」
紡がれる言葉に美奈はまたニコリと微笑んだ。
***
「おい、見ろよ」
「またあの問題児がやらかしたんだろう」
「放っとけ、触らないようにしろ」
"俺に言いたい事があるのなら直接言いやがれ" 。――まるでそう言わんばかりに、スーツ姿の刑事達の耳打ちを受けて通路を練り歩く180cmを超える身長の少年。
その顔は痛々しく、あちこちに痣が出来ており、ガーゼに覆われてその表情は確認しにくいが――黒髪のパーマがかったかのような長髪から覗く威嚇するような鋭い目付きは、まるで民間の安全を守る警察というよりは社会に真っ向から反発する古典的な不良を思わせる。
警視庁の問題児にして、通称不良刑事。橘祥太郎、18歳のいつもの、通常通りの光景である。
「おい……」
少年のふてぶてしい振る舞いが癪にさわったのか、彼の肩を乱暴に掴んで壁際に叩き付ける禿げ頭の中年刑事。
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