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小綺麗なスーツに身を包んでいるところを見るに、泥に塗れる外回りタイプではなく内勤勤めなのだろう。鼻息を荒くして橘に詰め寄る中年――だが、その身体は突如としてぐいっ、と持ち上げられる。
「何だ?」
胸ぐらを掴み上げるが早く、ぐりん、と身体を反転させ、今度は逆に中年の刑事を窓際に叩き付ける。押し込められる力は徐々に、徐々に強くなり――息を呑む中年の後頭部に接した窓ガラスに、徐々に蜘蛛の巣状のクラックが生まれてゆく。
「よォ、今時分は夜景が綺麗だ……」
「ひぃいいッッ!!」
5階の通路から上半身を外気に晒されるという恐怖に、中年の刑事は思わず悲鳴をあげる。流石に周りもまずいと思ったのか、慌てて小型警棒や携帯拘束用具を取り出して橘を取り囲む。
「俺とやる気なら、いつでもいいぜ」
前髪の合間から覗く鋭い瞳を以て凄むと、どさりと中年を放り投げる橘。
冷や汗を浮かべながら徐々に距離を取り始める刑事達を、まるで相手にしていないといった様子で再び通路を歩き始める。
拘束用具を向けられる刑事等、警視庁本部内を探してもこの少年くらいのものだろう。
少し歩いたところで、隅の方に居座り橘は壁に背を預ける。休憩という名のさぼりだ。
問題児故に、まともに関わる輩もいないのでやりたい放題なのである。
「……だそうですよ」
「その差出人がどんなのかわかってねぇのか?」
「いえ……現在内部捜査中です。上層部は我々の中に愉快犯がいるとみているようで」
「おかしい話だなぁ。正義を掲げた奴が正義掲げた奴疑うだなんてよぉ」
「ちょ、ちょっと!」
「……なんってな」
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