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その最中。二人の刑事の声に紛れ、どたばたと慌ただしい様子の靴音が廊下から聞こえてくる。夕方だろうが朝方だろうが常に巻き起こる街の犯罪。刑事達が慌ただしく駆け回っているのは本部内至るところで見受けられるいつもの光景だが、それにしても話し声の中に気になる部分がある。
「……内輪モメってヤツか?」
壁にもたれながら腕を頭の後ろに組み、呆れたような物言いで頭をかく橘。内部調査、愉快犯……どうやら警視庁内で厄介事があるらしい。上層部が目星を付けているのは、警視庁内部の人間か……。
天下の警視庁でこのザマ。橘はため息をついて、自分の部署へ戻るために仕方なく歩き出す。そこへ何やら荷物を抱えているメガネの姿。
総務部のマムシだか、ヘビだかそんな名前だったような気がする。
羽生美奈である彼女の名前を中途半端に覚えていた橘。彼女はキョロキョロと辺りを見回す感じから何かを探している様子。
そして、バチっと目が合う。途端に明るくなる顔。橘は眉根を寄せて、自分の方に駆け足でくる美奈を睨む。
「あっ、刑事部のナントカ君だっ」
「んだよ」
「ごめんなさい、ちょっとその子預かっててください! すぐ戻りますから!」
「あ、オイこら!」
言い逃げとはまさにこのこと。了承する間もなく去っていく姿に舌打ちする。押し付けられた荷物、もとい子どもを抱きながら、黒髪パーマの問題児は呟く。
「……隠し子か?」
橘の腕の中には美奈が連れ帰った男の子、ぼたんが静かに眠っていた。
***
子どもに泣かれるような目付きの若者が、安らかに眠る子を抱く。潜在的に違和感を感じさせる絵画の如く、その佇まいは何処かちぐはぐである。
「おう、隠し子か?」
「違ェよ、ボケ」
「橘パパはオッパイ出ないでちゅもんね~。ん~?」
「顔覚えたからなお前。腰骨砕いて赤ん坊みてェに這ってみるか? あぁ?」
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