case2:立てこもり事件

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「……はぁ……まぁいい。で?なんでその大量のケーキをわざわざ俺の家で食う必要があんだよ。本部の食堂でもよかったろ」  橘が2人に圧倒されつつも半ば諦めて尋ねる。すると、顔を見合わせた牡丹と美奈はニヤニヤとしながら橘に言った。 「だって、祥くん誕生日でしょ」 「……あ?」 「ふふん、総務部をなめないでね?個人情報は把握済みでぇーす」  牡丹と美奈の言葉で橘は初めて自分が誕生日だったことに気づく。忙しい仕事柄、そんなものは気にしたこともないし実際忘れていた。それでも、目の前の2人はただの過ぎ去る日ではなく“大切な日”として祝ってくれる。 「んだよ、それ……。別に祝うような日でもねぇだろ」 「そんなことないよ、オレらがお祝いしたかったんだよ!あと、ケーキ食べて祥くんの機嫌も良くしたいし」 「誰が不機嫌だ」 「ほらほら、仲良しさんたち戯れ合わないの。さ、どれにする橘くん。主役だもの、一番に決めて」 「……ったく。しゃーねーなぁ……」  口ではそう言うが橘の表情は柔らかい。2人の気持ちは十分伝わっているのだ。 「誕生日おめでとう祥くん」 「おめでとう橘くん」 「ああ、あんがとよ」  少しぶっきらぼうなのは照れ臭いからか。それがわかるから牡丹も美奈もニコニコ笑う。 「祥くん、ハッピーバースデー歌う?」 「いらねぇ」 「照れちゃって」 「ちげぇわ」  そんなやりとりをしつつ3人はケーキをつまむ。橘は少し驚いていた。ずっと1人で過ごしていた日々が、こうして1人ずつ増え、賑やかになることを。  それを案外悪くないと思っている自分自身に。 「美奈さん!このチーズケーキおいしいよ」 「こっちのティラミスも最高。食べてみて」  美奈に言われて幸せそうにケーキにかじりつく牡丹。それを見て、橘は考える。
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