case2:立てこもり事件

15/15
前へ
/71ページ
次へ
 先日の一件。牡丹が犯人に対して行き過ぎた行為に走ったのは、少なからず自分が関係しているだろう。  犯人の目的の一つに人質達や美奈の存在もあったはず。それなのにその時は冷静だった牡丹が、自分を殺す発言をした、それだけであんなにも狂ったようになった。  もしもこの先、同じような場面に出くわして牡丹がそういう風にまたなったら?それを止められなかったら?その先を考えた時、橘はゾッとした。  そして同時に思うのだ。そうならない為に自分が守ればいいと。このまだ未熟な子どもの心を。 「祥くん?」 「あ?なんだよ」 「なんか考え込んでるみたいだったからさ。どうしたのかなって」 「別になんでもねぇわ」 「ふーん……そっか」  牡丹は気にせず、またケーキを頬張った。それを見て橘は今気を張っててもしょうがないとため息をつき、牡丹の口にフォークで刺したケーキを向ける。 「ん?」 「いんだろ?口開けろ」 「あーん」  橘は牡丹が咀嚼しているのを確認し、その頰に手を伸ばしかけてやめた。そして、そのまま頭を撫でると、キョトンとした顔の牡丹が見えた。 「祥くん?」 「なんだよ」 「ううん。なんでもない」 「……あっそ」  そんなやり取りをしてまたケーキをつつく2人を見ながら美奈は思うのだ。 「いや、やり取り可愛すぎるでしょ。橘くんの顔に似合わない」 「あ?喧嘩売ってんのか」 「目の前で青春の1ページ見せられた独り身の気持ちを考えてくださぁーい」 「はい、美奈さんもあーん」 「ありがとおお!」 「アホが」 「何か言ったかしら?」 「何も」  3人で食べるケーキは、甘い。だけど足りないくらいの幸福も詰まっていた。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加