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先日の一件。牡丹が犯人に対して行き過ぎた行為に走ったのは、少なからず自分が関係しているだろう。
犯人の目的の一つに人質達や美奈の存在もあったはず。それなのにその時は冷静だった牡丹が、自分を殺す発言をした、それだけであんなにも狂ったようになった。
もしもこの先、同じような場面に出くわして牡丹がそういう風にまたなったら?それを止められなかったら?その先を考えた時、橘はゾッとした。
そして同時に思うのだ。そうならない為に自分が守ればいいと。このまだ未熟な子どもの心を。
「祥くん?」
「あ?なんだよ」
「なんか考え込んでるみたいだったからさ。どうしたのかなって」
「別になんでもねぇわ」
「ふーん……そっか」
牡丹は気にせず、またケーキを頬張った。それを見て橘は今気を張っててもしょうがないとため息をつき、牡丹の口にフォークで刺したケーキを向ける。
「ん?」
「いんだろ?口開けろ」
「あーん」
橘は牡丹が咀嚼しているのを確認し、その頰に手を伸ばしかけてやめた。そして、そのまま頭を撫でると、キョトンとした顔の牡丹が見えた。
「祥くん?」
「なんだよ」
「ううん。なんでもない」
「……あっそ」
そんなやり取りをしてまたケーキをつつく2人を見ながら美奈は思うのだ。
「いや、やり取り可愛すぎるでしょ。橘くんの顔に似合わない」
「あ?喧嘩売ってんのか」
「目の前で青春の1ページ見せられた独り身の気持ちを考えてくださぁーい」
「はい、美奈さんもあーん」
「ありがとおお!」
「アホが」
「何か言ったかしら?」
「何も」
3人で食べるケーキは、甘い。だけど足りないくらいの幸福も詰まっていた。
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