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ぼたんを抱いたまま器用に片足を持ち上げる橘。茶化していた刑事部の連中も、この男に絡んだのが間違いだったとばかりに足早に去る。
野次馬の人払いには大いに重宝する彼の人柄だが、法を担う警察の一員としてこの凶暴な性質は果たして如何なものか。……尤も、それこそが彼を問題児たらしめる所以なのだが。
「ねんねんころーりおーころーりよー、ってか。ハッ! アホくさ」
相変わらず安らかに眠っているぼたんを仕方なしに抱いたまま、部署の扉を器用に足先で開け、帰還を果たす橘。
そのまま自分のデスクへ向かい、どかっと音を立てて椅子に座る。
そんな荒っぽい動作の中、乱雑に抱かれながらも、未だにぼたんは眠りについたまま。
もぞもぞと居心地のよい場所を探し、橘の胸に頭を擦り付ける。
可愛い、子どもらしい寝顔。
だが次第に、表情は険しくなり、うめき声も聞こえた。
悪夢にうなされているかのような苦しそうな声。
嫌な汗を顔にかきはじめ、うめき声がだんだんと寝言に変わっていった。
「や……こわい……、ふぐっ……まっか…あつ、い……、い…か……ないでッ!!」
ぎゅうっと橘の服を掴んだ。そんなぐずる声を耳にして橘は……
「……何だ? 何か悪い物でも食ったのか、コイツ」
と、そんな事を呟いた。しかしこの年齢にしては不釣り合いな程に悲痛を孕んだ囁きに眉根を寄せる。
遠目から見る同じ部署の同僚に対し、「ガキあやすのは苦手なんだよ」とぼたんを預ける橘。
そういえば、これは一体何処の子なのだ? と疑問に思いながら橘はデスクのPCと向き合い情報と睨めっこ。
片付けなければならない案件は腐るほどある。それに先程耳にした噂も気になった。愉快犯とやらが本当にこの警視庁内にいるのなら、もしくは手引きしているアホがいるのなら、こんな馬鹿げたことはない。
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