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マキバアはそう言って、釣瓶の縄を井戸に垂らして何度も水を汲んでは釜や鍋に水を注ぎました。井戸はかなり深そうです。
「もうすこしマキちゃんとあそんでかえる」
リカは遊び足りず、帰るのを渋りました。
「暗うなったら井戸から鬼が出るよ」
マキバアが普段は言わないことを言ってリカを脅かしました。
「子供を引きずり込んで地獄に連れてくけえ」
「オニがでるいどの水でごはんつくるん?」
リカはマキバアの言ったことに、びっくりして訊き返しました。
「ひゃひゃひゃ、面白い事を言う子じゃねえ」
マキバアがお道化た笑い声を立てました。
「じゃが、もう去にんさい」
マキバアの笑い顔がとても恐ろしく見えました。リカはふと、マキバアが鬼に見えてしまい、どっと恐怖が押し寄せ体が動かなくなりました。
「リカちゃん、さよなら」
マキちゃんが家に入り玄関を締めたので、リカはようやく解放されて家路に着きました。
日が落ちて怖さが増したせいか、たった十数歩の道のりが、とても長く感じました。
翌日、リカは昨日のことをひきずりつつも、マキちゃんの家に遊びに行きました。
いつものように解放された玄関前に着いたのですが、マキちゃんとマキバアの姿がありません。しばらく待ちましたが、すぐにしびれを切らしてしまいました。
「マキちゃーん」
呼んでも返事がありません。
リカは、玄関の敷居を跨ぎました。
暗い土間に立ったその瞬間、異様なほど釣瓶の井戸が気になりました。
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