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目の前に井戸があります……怖い。蓋を閉じていますが深そうです……怖い。釣瓶の縄が妙に赤黒いです……怖い。マキバアは夜になると、井戸の中から鬼が出ると言いました……怖い。リカは自分頭の中で、どんどん恐怖を膨らませてしまいました。
リカは沈み込むほど暗い土間の中から、井戸を背にして玄関の外を見みました。そこは白飛びするほどの明るさです。
いつもは人通りがある歩道ですが、今は誰も通りません。静まり返ったこの明暗の世界に、リカだけが存在しているようです。
ガタン……突然、背後で音がしました。すぐに井戸の蓋が動いた音だと思いました。
すると、井戸の蓋が少しずれていて、隙間から釣瓶の縄が井戸の中に垂れていました。 さっきはちゃんとしまっていた蓋が開いている。リカの思考が凍り付きます。
ギシ……ギシ……。突然、縄を掴んで何かが上がって来るような音が聞こえてきました。ギシ……ギシ……ガタ……ガタ……。ギシ。
「マキちゃーん」
リカは暗い土間の、上がり框の奥に呼びかけました。もちろん返事は有りません。
音はギシ……ギシ……と縄を井戸の縁に擦り、蓋をガタ……ガタ……と震わせながら、だんだん上がって来るのです。
ギシ……ギシ、ギシ、ガタン!
「わあああああ!」
リカは、絶叫しながら玄関から飛び出しました。そして勢い余って歩道に転倒した瞬間、暗闇地獄に落ちたのです。
気が付くと常夜灯の光に照らされる天井が見えました。リカは布団に横たわっています。右隣で弟の寝息が耳障りに聞こえて来て、リカは夢から覚めたのだと安堵しました。
翌日、リカはいつも通り、マキちゃんの家に行きました。
「え……?」
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