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「リカ……お前を……やる。リカ、お前を……してやる。お前を……い……してやる」
同じ言葉を二、三回繰り返すと、大きく目を見開いたお坊さんの首は、くるくると回りながら高笑いをしました。その笑い声は当時テレビの番組でやっていた、黄金の骸骨の笑い声そっくりで、耳をつんざくほどの大きさでした。リカは我慢できなくなり、耳を押さえ体を丸め、目を閉じてじっとしていました。
気が付くと笑い声は聞こえなくなりました。先ほどまでお坊さんが座っていた場所には、またいつものように練りガラスの花瓶が置いてあります。
東側の格子で仕切られた出窓からは陽の光が差し込んで、まるで何事もなかったかのように人の往来が良く見えました。誰一人、お坊さんの笑い声を聞いていなかったようです。リカがいるこの和室だけが異質な世界のようでした。
これは幼いリカがお昼寝中に見た夢だったのだと思います。しかし、お坊さんの顔はしっかり覚えています。そして、言われた言葉もはっきりと。
「リカ、お前を呪い殺してやる」
そのお坊さんはいったい何者で、彼の言葉はどういう意味があったのでしょうか。床の間に入り、悪さを繰り返すリカへの戒めだったのでしょうか。リカはそれ以来、床の間に足を踏み込むことはなくなりました。
リカは呪われたという自覚もなく過ごしています。
ただ、その後もリカは何度も何度もお坊さんのことを思い出してしまうのです。
なぜなら、リカが結婚した夫が、歳を追うごとにあのお坊さんそっくりになっていくからです。
あの出来事は本当に夢で終わるのでしょうか?真相はまだ分かりません。
(終わり)
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