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夜釣りの河童
これは、リカが四歳の時の出来事です。
ふと目が覚めたリカは、毛布にくるまって横になっていました。
リカが横になっていた場所は、戦前からある古い石橋の歩道で、疎らな人影がみな等しく下向き加減に往来しています。車道では、耳障りなエンジン音とアスファルトを蹴り潰す走行音が通り過ぎ、車のヘッドライトと排気ガスがもやもやと漂っていました。
橋はリカの家の近所にあり、昔から河童が出るといわれる川に架かっていました。
リカの周りには、カセットコンロと二、三個積み上げられたアルミ鍋、リカを包む毛布がありました。まるで橋の上でキャンプをしているようです。
「起きたか」
父の声がしました。リカは慌てて起き上がり、 父の声がした方に目を向けました。
父は麦わら帽子をかぶり、白いシャツにサスペンダー付きの釣りズボンという姿で、リカに背中を向けて……と言うか正確には、欄干に向かって……胡坐をかいていました。
右手に釣竿を持ち、 欄干から糸を垂らして魚を釣っているのです。
リカは父の傍らにあるブリキバケツの横に膝を抱えて座り、欄干の隙間から見える向かいの大きな橋に目をやりました。
向こうの橋でも、頭の天辺が禿げた着物姿の見知らぬおじさんが釣りをしています。
どうやらリカは、父の夜釣りに付き合わされて退屈あまり眠ってしまったようです。
「夏じゃけえ、魚がよう釣れる」
父は釣った魚をバケツの中に入れます。魚はバケツよりも大物だったと思いましたが、何故かすっぽりと収まるのです。
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