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リカは、自分が眠っている間にどれだけの魚が釣れたのか、ワクワクしながらバケツの中を覗きました。けれど、父が言うほど魚は入っていません。バケツの中は泥水だったのではっきり見えませんでしたが、たぶん二~三尾だけだったと思います。
バケツから顔を上げて向こうの橋を見ると、
先ほどの知らないおじさんが、何度も何度も釣竿を上げ下げして魚を魚籠に入れています。笑い声が響いて止まらない様子から、よほど沢山釣りあげているようです。
「あがぁに釣ったら、ようけのうなる。食べる分だけでええ」
父はそう言いながら、釣り糸を川に垂らしたままの釣竿を欄干に立てかけました。それからアルミ鍋を一つカセットコンロの上に置き、先ほど釣った魚の一尾を鍋に入れて蓋をして煮始めました。
魚の煮える匂いがして湯気が立ち上がると、父は蓋を開けて魚を取り出し、隠れるように魚を食べ始めました。
暫くして釣竿に激しい引きが有りました。父は釣竿を掴むと、
「お前も食うか?」
自分の食べかけの魚をリカに差し出しました。リカは魚の骨が苦手なので、首を横に振りました。
「ぶち美味いんじゃがのう」
父はそう言いながら鍋に食べかけの魚を戻しました。そして空かさず釣竿を引いた魚を釣り上げました。
しかし、すぐに釣り針から外して川へ投げ返しました。
魚は喜んでいるように勢い良く、夜の川を何度も何度も跳ねました。
「どうして、つったさかな、かえしたの?」
リカは不思議に思って父に訊きました。
「まだ、小さかったけえ……」
と、父は静かにつぶやいた後、突然リカの方を振り向きました。
リカは目を見開いて息を飲みました。
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