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父の顔は真っ黒く、目鼻が見えませんでした。それどころか、白いシャツの胸元から見える青黒い肌はガリガリの肋骨が浮いていて、父の丸い体形とは全く異なっているのです。
どうしてリカは、この人を父だと思ったのか。リカは頭の中が混乱して体が動かなくなりました。
「お前も、まだ、小さいのぉ」
父だと思っていた男はそう言って、リカの左手を掴みました。
掴んで来た手は水っぽくひんやりしていて、柔らかい真綿を包んだビロードを撫でているような感触でした。
すぐに頭をよぎった男の正体。すると、いきなりリカはポーンと宙に投げ出されました。
「……!」
悲鳴を上げる間もなく、大きな水音とともに泡がリカの体を包み、途端に意識が無くなりました。
どのくらい時間がたったのか分かりませんが、リカはお風呂で湯船の底に沈んでいるのを父に救い出されたそうです。
それだけしか記憶にありません。
(おわり)
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