迷子のお迎え

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迷子のお迎え

 これは、リカが五歳の時の出来事です。  鎮守様の神社で御囃子(おはやし)が聞こえる中、リカは神楽を見ていました。  幼かったリカには演目が分かりませんでしたが、垂纓冠(すいえいかん)を被った束帯(そくたい)姿の男性と、布で出来た大蛇が文字通り蛇腹(じゃばら)を伸縮させて舞う姿はとても勇ましく、リカの冒険心をくすぐりました。  父は、リカが迷子にならないようにと、リカの右手をしっかり握ってくれていました。   それに安心を覚えたリカは、神楽をもっと間近で見ようと父の左手を引きながら、ますます神楽殿の前に進み出ました。  天を(あお)ぐように見る神楽殿は、(まさ)しく神の世界を見上げているようです。リカは神楽殿高さに圧倒され、その興奮を父に伝えたくて視線の先を握っている父の左手に移しました。  違和感を覚えたのはその時です。明らかに父の左手がおかしいのです。  普段、父に手を引かれる時、リカの手は自分の顔よりも高い位置に上がります。ところが今は、自分の顔より低い位置で父の左手を握っています。しかも日に焼けた大きな手と違い、細く蛇の鱗のように凸凹(でこぼこ)しています。  リカは父を見上げました。果たしてそこに父の姿がありません。それどころか、左手は持ち主もなく宙に浮いているのです。  リカは慌てて左手を捨てました。父を呼びながら、人込みの間を(くぐ)り抜けて走りました。  鳥居の辺りまで来ると、その先に有る一般歩道を左右に見渡し、父を呼びながら姿を探します。  けれど、神社の賑わいと打って変わり、歩道は真っ暗で誰一人通行人がいないのです。街灯の明かりすらありません。  リカは鳥居の下で、大声で泣きだしました。
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