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しばらく泣いていると、リカの頭越しに男の人の声がしました。
「迷子だね」
見上げると長い白ひげを生やした斎服姿の知らない老人が立っています。
「こっちへおいで」
老人は手招きをして、先ほどの神楽殿に向かう参道を歩き出しました。
リカは涙を拭い、その老人の後ろ姿を追いかけました。この人についていけばお父さんに会えると信じて。
父を探している時には気付かなかったのですが、参道には提灯を吊り下げた屋台が並んでいました。鼈甲飴に綿菓子、りんご飴。ウサギ耳の風船にヨーヨー釣り。子供が喜ぶ店が立ち並んでいましたが、何故か子供の姿は有りません。お面をつけた和装姿の大人たちばかりが並んでいるのです。
子供なのは自分だけ? その光景が一層リカを不安にさせました。
「お腹がすいたか。何か買ってあげよう」
不意に老人が振り返りました。リカはそれほどお腹を空かせていませんでしたが、大きな赤いりんご飴に魅力を感じました。それは母が持っている指輪の柘榴石のように輝いていました。
これを持って帰ったら母が喜ぶだろうと思い付き、屋台に向けて指を指しました。老人は頷くと、りんご飴を一本取ってリカに手渡し、再び参道を歩き始めました。
神楽殿の横まで来ると法被姿の男性が数人立ち並んでおり、老人に気が付くと皆が一斉にお辞儀をしました。
老人はリカを見下ろして、
「ここで待っていたら迎えが来るよ」
と言い、そのまま立ち去ってしまいました。
リカは用意された椅子に座り、法被姿の男性たちに囲まれる中、父の迎えを待ちました。
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