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しばらくするとリカの目の前に……と言っても男性に囲まれているのでその隙間から……人影が見えました。
一瞬、父が来たと思って安心したのですが、すぐにそれは打ち消されました。
人影は父ではなく、白地に千鳥格子柄のツーピースを着た年配の女性なのです。しかし母でもありません。
「お家の人が迎えに来たよ」
法被姿の男性の一人が、リカにそう言いました。誰か他の迷子と間違っていないか?とリカは思いましたが、自分の他に迷子はいません。そして女性は狙ったようにリカの前にやってきます。
「迎えに来たよ」
女性はにっこりと笑い、リカに左手を差し伸べました。蛇の鱗のような凸凹。その瞬間、リカは気付きました。自分が先ほど握っていた左手です。途端に頭の中で警鐘が鳴ります。リカは老人に買って貰ったりんご飴を女性の手に載せました。
すると女性はりんご飴を鷲掴みにして、長い舌でぺろりと一舐めすると、満足そうに笑いながら、スルスルと居なくなりました。
その入れ違い、血相を変えた父がリカを目の前にして膝から崩れ落ちました。
「急に居らんようなるけえ、たまげた」
父は法被姿の男性たちにお礼を言ってから、リカの右手を引いて歩きました。リカは顔より上にある自分の右手を見て、ようやく父の左手を握っていると安心しました。
十数年後にリカは、父にこの時の話をするのですが、父は神社でリカが迷子になったことは一度もないと首を傾げます。
リカも何度か鎮守様の神社に足を運びましたが、鳥居から数メートルほどの所に拝殿があるので、境内は屋台が並んだり、神楽殿を組んだりするほどの広さはありませんでした。
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