ツンデレ

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ツンデレ

 異変が起こったのはそれから一ヶ月ほど経った頃だった。しんと一週間ほど連絡がつかなくなったのだ。ドラムとベースにも協力を仰いで探したが、一人暮らしの自宅にも、バイト先にも、思い当たる友人の家にもいない。まさかと思って耳の病院にも訪ねたが、入院しているなどでもなかった。 「あいつ、ツンデレにも程があるやろ。おい元彼君、実家は知らんのか」  病院の前のバス停で、ベンチに腰掛ける裕也を見下ろした。 「知りません。家族の話はほとんど聞いたことなくて」 「今までこんな事は?」 「ないすね」 「……」  俺は考えた。どうすればしんに声が届くか。 「おい元彼、しんがチェリポケで一番思い入れのある曲はどれや」 「えっ……」  裕也は顎に手を当てて考え出した。 「Flyかな。あのライブの一曲目のやつです」 「歌詞くれ」  俺がそう言うと、ベースが鞄からボロボロの冊子を出して渡してきた。 「楽譜です」  俺はそれを受け取り、二人を順に見て念を押した。 「お前らもSNSやってるなら、今日の俺の夜公演の告知、拡散しといてくれ」  ほな、と二人をバス停に残して俺は歩き出した。楽譜を片手に、劇場まで歩く。その間、完璧に喉を整えた。
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