32人が本棚に入れています
本棚に追加
届け俺のうた
「はいどうもー月光電設ですよろしくお願いしますー」
いつも通り、客はある意味安心した顔で俺達を見ている。細々とやっているSNSにも『今日は歌ネタです』と呟いて来た。相方にもアニソンを替え歌にする歌ネタをやろうと伝えている。
相方がボケて、俺がツッコむ。ややウケ。いつも通り。だが俺は、ここで決心していた事を始めた。
「歌といえば今日は、聴いてほしい歌があんねん。俺も歌わしてもろていいですか皆さん?」
「はっ? な、何やねん急に」
突然暴走を始めた俺に慌てる相方。悪いけど何とか頼む。
「CHERRY POCKETの、Flyです。聴いて下さい。ンンっ!」
「いや誰の何? ちょ、ガチの顔やめて?」
会場の笑い声が増え、目がわくわくに変わる。
俺は大きく息を吸い、あいつの魂の歌を思い出しながら全力で歌った。Flyを聴いた時のあの衝撃。あの瞬間から、俺はしんに惚れたのだ。
俺の真剣な歌に、客はくすくす笑い出し、相方がいい所で「いや何の時間?」「ええ歌やな」とツッコむ度、爆笑になる。
フルコーラス歌い切って、相方も客も俺のオチを待った。
「うるる聴いてたか? 宣伝しといたったで」
「いや友達のバンドの曲ここで広めんとって?」
相方の神がかったツッコミのおかげで笑いが起こり、何とか漫才として成立した。
袖に捌けると、相方が「どないしてん」と眉を寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!