届け俺のうた

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届け俺のうた

「はいどうもー月光電設ですよろしくお願いしますー」  いつも通り、客はある意味安心した顔で俺達を見ている。細々とやっているSNSにも『今日は歌ネタです』と呟いて来た。相方にもアニソンを替え歌にする歌ネタをやろうと伝えている。  相方がボケて、俺がツッコむ。ややウケ。いつも通り。だが俺は、ここで決心していた事を始めた。 「歌といえば今日は、聴いてほしい歌があんねん。俺も歌わしてもろていいですか皆さん?」 「はっ? な、何やねん急に」  突然暴走を始めた俺に慌てる相方。悪いけど何とか頼む。 「CHERRY POCKETの、Flyです。聴いて下さい。ンンっ!」 「いや誰の何? ちょ、ガチの顔やめて?」  会場の笑い声が増え、目がわくわくに変わる。  俺は大きく息を吸い、あいつの魂の歌を思い出しながら全力で歌った。Flyを聴いた時のあの衝撃。あの瞬間から、俺はしんに惚れたのだ。  俺の真剣な歌に、客はくすくす笑い出し、相方がいい所で「いや何の時間?」「ええ歌やな」とツッコむ度、爆笑になる。  フルコーラス歌い切って、相方も客も俺のオチを待った。 「うるる聴いてたか? 宣伝しといたったで」 「いや友達のバンドの曲ここで広めんとって?」  相方の神がかったツッコミのおかげで笑いが起こり、何とか漫才として成立した。  袖に捌けると、相方が「どないしてん」と眉を寄せた。
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