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夕方、六時を回った頃。
やっと落ち着いた店内で片づけをしていると、カラン、とベルが鳴り、作業の手を止めてドアの方を見上げた。すると、デニムにグレーのパーカーを羽織ったすらりとした――私は息を呑んだ。湊君だ。まるで最初に会った日のように、湊君がお店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
来てくれた――。
「こんにちは」
湊君はまっすぐ私を見て答え、そして、目を丸くした。
「陽向さん?」
「ご無沙汰しています」
「――どうして、ここに?」
湊君が困惑したような笑顔で言う。
湊君に会いたかったからだよ――そう言いそうになるのを、必死でこらえた。
「独立開業したの」
「ここで?」
「そう」
「驚いたな――すごい偶然。職場がすぐ近くで」
偶然じゃないよ、湊君。知っていてここにしたの。
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