001:逃亡

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001:逃亡

 複数の男たちの怒声が街なかに響いている。 「おい! そっちに逃げたぞ!」 「追い込め。こっちだ!」  そんな彼らから必死で逃げる男の子が一人。すでに息はあがり、足は重く、もう幾らも逃げられそうにない。それでも少年は何度も何度も挫けそうになる自分を叱咤しながら必死で逃げる。  現在、少年が走っているのはスラム街だ。  そして追い駆けているのは奴隷商の人間狩りを専門に行なっている男たち。  つい先ほど少年は母親によって奴隷商に売られた。  わずか小銀貨三枚分の値段でだ。ショックだった。つい先日に十二歳になったばかりなのに……  これから三年後には成人して働き、いずれは親の面倒を見るのだとばかり思っていた。でもそう思っていたのは彼だけだったらしい。  それを知り、悟った少年は奴隷商に引き渡される一瞬の隙をついて、するり男たちの手から逃げ出した。  昔から、すばしっこさには自信があった。  身体を使うのが人より上手かった。  大抵のことは器用にこなせた。  しかし、それでも子供は子供。  大人の。  しかも逃げた奴隷を専門に追いかける人たちの連携に次第に追い込まれていった。 「はぁ、はぁ、はぁ……」  とうとう少年は壁際に追い込まれてしまった。壁は自分の背丈よりもずっと高く、飛び越えるなら勢いをつけて一度か二度、壁面を蹴って駆け上がらないといけないだろう。  そして、後ろには数人の大人達。  本来なら絶望して諦めるところだ。でも少年は必死で逃げ道を探す。  男たちの股を潜ってすり抜ける?  後ろの壁をよじ登る?  戦う?  考える。少年は頭を必死で働かせながらも男達を睨みつけていた。なんだか分からないが拳を構えたりもしている。少しでも強そうに見せるために。抵抗の意志をみせるために。  そのどれもが少しでも時間を稼ぐための行動だ。諦めない。諦めてたまるか。そんな少年の様子に男たちも警戒して慎重な行動をとろうとしている。相手が子供といえども一切の油断をしていない。  少しずつ互いの距離が縮まっていく。  その距離が大人の歩幅で後一〇歩もない距離まで近づい時。少年が動いた。前方に走り出したのだ。それはまるで弓から放たれた一本の矢のよう。初速から一気に最高速度へ。  そこに男の一人が腰を落とし両手を広げて前方に立ちはだかった。ここは通さないという強い意志が感じられる。  しかし少年は、とっさに男の目の前で両足を揃え高々とジャンプをした。ちょうど跳び箱を飛ぶような格好だ。  そのために男の両手は空を切る。  そして少年はそのまま男一人を飛び越えて地面に着地。  しかし、その瞬間を狙っていたかのように、奥に居た男が木の棒を少年の頭に振り下ろしたのだった。
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