驚嘆

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驚嘆

「こっち、こっち、です……」 ウルリヒは人気がない場所へシュテファニーを連れてきた。 「なんじゃなんじゃ〜愉快なウルリヒよー、なんか見つけたんか?目ざといお前のことじゃから、珍しい虫でも、いたんか〜?」 笑顔のシュテファニーが聞くと、ウルリヒは真面目な顔をつくった。 「いえ…虫なんかじゃ、ありません。……あの、その…シュテファニーさん……突然こんなこと言って、あれなんすけど……。す、好きでっす。仲間としてではなく、あなたを女性として…好き、です。よ、よろしければ…オレとお付き合いして、いただけませんか!!」 シュテファニー「……!!?はっ、はひぃっ!!??なッ、な…なにぃッ…!!!?すすす、す、すきぃ、じゃとぉッ!??」 「…………」ウルリヒは黙り、真剣な目をしている。 「……。……。……。…ウ……ウルリヒ…よ……。そそそ……その……眼差しは……ほほほ、本気なのじゃな。お、お前が……そのように…私のことを……」 困り果てたシュテファニーは、もじもじした。 「……はい……」ウルリヒは何度も首を縦に振っている。 「…………」シュテファニーは難しい顔をしたまま黙ってしまった。 「……。……。……だ、だめっすか…オレじゃ……」 ウルリヒは何とか声を出した。 「い、ぃいいや……。決して、だめ…だというわけではないのじゃけども……。えっと…その…なんと言うと、よいのじゃろう……」 シュテファニーは赤面している。 「…………」ウルリヒは相手の言葉を待っている。 シュテファニー「…………。…ぉ…お前が、い、いえ、大事なそなたが私へと……そう伝えてくれたのは、ほんに嬉しいことじゃ。私へ対し好意を…そなたが抱いてくれておるのは、我が身の誉(ほま)れ。…ありがとう、ウルリヒ。私もそなたを大切に感じとる。…それはまったくもってその通りであるのじゃが……私には…その…これは…真に言いにくいのであるけれど……い、愛しい御方がおって……。その御方と私は交際しておるんじゃ。…無論、そなたの気持ちは純粋に嬉しいのだけれども……。そ、それなので……すまない、すまない。ウルリヒよ……」 「…ぇッ!!!???」ウルリヒはまばたきもできなかった。 シュテファニー「……。そなたを特段に気に食わぬ、というのでは決してないの。思い違いをせんでほしい。そなたを嫌いなのではないぞよ。……先述した御方に私が出会わなければ、先にそなたと出会い、そなたから想いを告げられたのならば……そなたと親しくなるのを拒む理由は何もないわ。何故かというと、私はそなたがどんな人間か、よく知っておるためじゃ。……包み隠さずに明かすが……私は……それまで、殿方と恋愛というものをしたことが、経験が、なかったの。しかし…しかし……あるとき…その、ある…御方に出会った際、私は全身が雷に撃たれたみたいになって…それで、その方を……あ、愛してしもうた。…もう、もう、その方のことを想うと…わ、わきあがってくる…この、この、己の気持ちをどうするといいのか…わからん…整理がつかんの…。…それゆえに……すまなんだ…」 「………………」ウルリヒの表情に変化はなかった。 シュテファニー「…ごめん。気分を害したことじゃろう。私のような女性(にょしょう)が口にすべき事柄ではないからな。…裏表があって気色悪いと思われたにしても、やむをえん。言い逃れをするつもりはない。…私自身、そなたも知っての通り…武士(もののふ)・武人・騎士・戦士…と…そんな生き方を志してきたのだから…のぅ。ただ……私の心はその方と出会い、変わってしもうた。自分でもこんなに変化するものだとは思いも寄らんかったわ。……ウルリヒ…私は戦友、ううん、大切な仲間として…そなたの性格を知っておる。そなたは…仲間から、嘘をつかれたり、だまされたりするのを喜ぶような…ねじれた心の持ち主ではない。……私が己を偽ったままで、そなたと男女の仲となっていったのならば…それは、そなたを侮辱しているのと、なにも変わらぬ。…違うであろうか?」 ウルリヒ「……」 「……。すまない。謝るよりほかない。私は…そなたを信頼しているゆえ……正直に、話した。……勇気を出し、率直に気持ちを伝えてくれたのにもかかわらず…期待には添えんで…ほんに、ごめん…なさい……すまない、すまない……これで、許しておくれ……」 そこまで言ってから、シュテファニーは深々と頭を下げた。 ぎゅっと目を閉じたままで頭を下げているシュテファニーの耳へ妙に明るいウルリヒの声が聞こえてきた。 「……わ、わかりました。わかりましたよ。き、気にしないでください…。シュテファニーさんは正直だ。……どうしてオレ、あなたを好きになったのか、わかりました。……あなたは強いだけじゃない。とっても素直で優しいんすね。……こんなオレをそんなふうに思ってくれてるだなんて……嬉しいっす。……こっちこそ、すいませんでした。…オレ…ひとりで、つまり片想いなのに…何というか、舞い上がってて……。ホントすいません。こんなに真摯にオレの言葉に対応してくれるだなんて……シュテファニーさんを好きになって、オレ、よかったです。……あきらめもつきました」 「……ウルリヒ…わ、私は、これからもそなたと…」 口を開いたシュテファニーにウルリヒが言ってきた。 「ありがとうございます。も、もういいです。言わないでください。…お、お時間をとらせて…ホント、すいませんでした。シュテファニーさん…これからも、頼りにしてます。…すいませんでした。そ…それじゃあ……」 ウルリヒは無理に笑みを浮かべて去っていった。 「……………………」 外灯がある方向へと歩いてゆくウルリヒの後ろ姿をシュテファニーは見つめていた。 ……心の臓が高鳴っている。 こんなこと、はじめてのことじゃし……と、シュテファニーはぼんやり感じた。
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