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女性たちと僕(4)
「か…間一髪、だったね…ふぅ…」
ローズマリーはユリウスの顔を見て、身体を起こした。
「背中…斬られたんじゃ…」ユリウスはローズマリーの手をとった。
「あー、うん。あたし、鎖帷子(くさりかたびら)着てたの。だから…ほら……」
ローズマリーの声に彼女の背後にまわったユリウスは防具を触った。
「……腕とか、首の方は…無事?」
心配そうなユリウスの声にローズマリーは明るい声で返した。
「えへへ。痛いところは、ないよ」
両者の会話を聞いていたエーファは、一対の刀を鞘へおさめた。
それからエーファは攻撃魔法で倒された賊の様子を見に行った。
モンスターたちを片付けたシュテファニーがこちらへ歩いてきて、言った。
「こっちはどうか?」
「あたしは大丈夫。ユリしゃんも大丈夫!」ローズマリーが答えた。
エーファは戻ってきて、孥(いしゆみ)を拾いあげた。
「…賊は全員、始末したよ」
「よし……」
エーファの報告にシュテファニーは目を伏せて、剣を鞘へおさめた。
三名の女たちの話を聞いていたユリウスは「女の人って…すごいよな…」と感嘆(かんたん)しつつも、謝った。
「…ごめん、ローズさん。僕をかばって…危険な目にあわせてしまって…。ごめん。僕、みんなに助けられてばかりだ……」
男が発言するや、彼よりも年上の女たちは相手へ向き直った。
「気遣いは無用であるぞ、ユーリよ。我らは騎士である。必要とあらば、主殿のため、この身を擲(なげう)つ覚悟は出来ておるのじゃ。こいつのような粗こつ者であっても、その点はわきまえとるのだ」
シュテファニーの言葉にローズマリーは不満そうに言い返した。
「そこつもの…って、余計だって〜!」
「何か、違ったんか?」
シュテファニーはふくれっ面のローズマリーへ述べた。
「ローズ……髪…切られてるね」
エーファはローズマリーの後ろの髪をなでた。
「あッ!!あ、ああッ!!!いや〜だ〜〜ッ!!!こ、ここ、こっそりと…伸ばしてたのにぃぃぃーーッ!!」
ローズマリーは頭を触り、大声を上げた。
「髪など…また伸びてくるであろう」
シュテファニーは冷ややかに言い放った。
「やーーー、そーいう問題じゃなくてーーーッ!!」
泣きそうな顔のローズマリーにユリウスは頭を下げた。
「ほ、ほ、ほんとうに…ごめん……。僕が転んだから…」
びくびくと怯える男へ美しい顔に返り血を浴びている女は笑った。
「…ユリさんは気にしないでいいよ。…短い方が似合っているけれど」
エーファの言葉を受けたローズマリーは「え!?……そう…かな?」と、ぼそぼそ言ってから、ユリウスへ問いかけた。
「ね…ねぇ…ユリしゃん…。あたしの髪…短い方がいい?…どう思う?」
可愛らしい声を出したローズマリーにユリウスはどきりとして、「…う、う、ぅん、い、いいと…思う、よ。僕は……」と返した。
「……な、なら…いいや。ユリしゃんも怪我してないし…ファニーやエーファも元気そうだし…」
ローズマリーはどうしてか赤くなっている。
「町に帰ったら、お店に行って髪を整えてもらおうよ」
エーファはローズマリーの髪を見た。
「…ぅん。そーする…」ローズマリーがうなずいた。
「……なぁ…ユーリ…。ユーリんは……短髪の女性(にょしょう)が…好みなの?」
シュテファニーはユリウスの顔をじっと見ている。
「い、いいえ…その…ファニーは…そのままで…最高だ…」
どぎまぎした男は言ってしまった。
「ユ…ユ…ユーリ…そんなふうに…言うて…」
シュテファニーはもじもじしている。
「「…………」」
ローズマリーとエーファは黙って互いの顔を見あった。
「いかんぞよ〜、ユーリ…。ここは戦場(いくさば)なのじゃから〜。も〜う、ユーリんったら〜」
そう言いながらもシュテファニーはユリウスへ抱きついてきた。
「ご…ごめん…いろいろ……」
照れているユリウスはそれ以上の言葉が出なかった。
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