任務の説明

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任務の説明

広い会堂の正面には長方形の教壇(きょうだん)があり、その後ろには王都を中心に描かれたクロイゼン国の大きな地図が貼られていた。 教壇の手前には四つの椅子が置かれている。 それぞれの椅子に座っている四人を前に立っている口ヒゲの男は、細い棒で地図を指した。 口ヒゲの男「…以上が任務の詳細となる。各自、わかったであろうか。派遣先は別名・フライヘア邸だ。これはファルケンハウゼン家が他の貴族から譲渡された屋敷のひとつである。…あらかじめ言っておくが、馬は出せん。出払っておるのだ。……だから、お前達は歩いて現場まで行きなさい」 「…………」真正面からみた四名の女騎士たちは黙っている。 口ヒゲの男「この任務が終了するまでの間はハンフシュテングル君を隊の長(おさ)として行動することとなっている。…初めてのことゆえに戸惑うこともあろうが、お前達なら、訓練通りにやれば大丈夫だ。各人、心してとりかかるように。…特にハンフシュテングル君、よいな?」 「ハッ」シュテファニーは、はっきりとした声で返した。 口ヒゲの男「うむ。…装備は演習時と同じものでかまわんぞ。合戦(かっせん)をするわけではないので、重装備はいらん。屋敷へも徒歩で向かうこととなる。…現時点での屋敷への派遣期間は渡した紙にある通りだが……それが延長となるか、早期に打ち切りとなるかは、お前達の働きにかかっている。…任務手当は別途つくので安心しろ。向こうへ着いてからの食事はファルケンハウゼン側が用意する。また、屋敷内での寝泊まりも同家が許可してくれている。…屋敷は大きいが部屋は余っているらしい」 「…………」斜め前からみた四名の女騎士たちは黙っている。 口ヒゲの男「追加の装備として…マントを各々へ与える。…それを着用して、任務に就くように。…新型の活版(かっぱん)印刷機が期日までに届かなくてな。いろいろと遅れてしまったのは、まことにすまなかった。…なんでも、ニッツスロー領を通る際…盗賊に荷車を襲われた、とのことだ」 「…………」俯瞰(ふかん)からの四名の女騎士たちは黙っている。 口ヒゲの男「ここから、屋敷まで行ってもらうが……急ぐことはないぞ。ゆったりと行け。目立たぬように町中や舗装された道は歩かないようにせよ。何者かに我々の動きを嗅ぎつけられたくはないのでな。屋敷へと到着したら、ファルケンハウゼン家のユリウス殿へ直接この書状を手渡すように。…これは、お前に預けようか」 男は封がなされている書簡をシュテファニーへ手渡した。 「…ハッ」両手で書簡を受け取ったシュテファニーが返した。 口ヒゲの男「兵糧(ひょうろう)班へ伝えておくので出発時、兵糧は好きなだけ持っていってもよいぞ。……ここまでで何か、質問はあるか?」 「…………」背後からみた四名の女騎士たちは黙っている。 口ヒゲの男「……ないようだな。お前達は団員の中でも、秀でているゆえに今回の派遣任務へと抜擢された。したがって、お前達の働きに我らの命運は握られている。…ファルケンハウゼン家の方々へは無礼のないよう、注意を払え。お前達に与えるマントには騎士団の紋章が入っているのだ。……言いたいことがわかったであろうか?お前達の失敗と失態は、そのままここへと降りかかるものと考えよ。場合によっては末代(まつだい)までの恥となるだけにとどまらず、騎士団の解散にまで発展するやもしれん。我が騎士団は創設されたばかりなのでそれは避けたい。…心身を引き締めて、任務へと臨むことだ」 男は地図の下に細い棒を置いた。 「…………」真横からみた四名の女騎士たちは黙っている。 口ヒゲの男「いつになるのかはまだ不明だが任務が終了し、お前達が帰還したあかつきにはそれなりの褒美(ほうび)をとらすぞ。……お前達の受ける誉(ほま)れは我々の誉れともなるのだ。…すべてを踏まえた上で各々、協力をして精進に励むように。…私からは以上である」 「…………」斜め後ろからみた四名の女騎士たちは黙っている。 口ヒゲの男「これにて、任務の説明を終える。…起立!礼!」 立ち上がった四人は口ヒゲの男へ頭を下げた。 頭を上げた男は教壇から降りて、会堂の出入口まで歩いて行った。 男の足音は遠ざかっていったが、重苦しい雰囲気の中、四人は立ったままだった。 足音が完全に聞こえなくなったとき、四人の内の誰かが「…はぁ〜〜〜〜」と、大きなため息をついた。
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