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四つの結晶(1)
「フライヘア邸」という屋敷の警備任務を命じられた四人の女騎士だったが、任務の説明を受け終えた後も彼女たちは広い会堂の中で立ったままだった。
…………これでいい、計画通り。
したり顔を隠したエーファ・ミュラーは右側を向いて、三人の様子を観察した。
「急に…不安になってきたよ……」
ローズマリー・ロブジョワがぽつりともらした。
「思っている以上に…重大な任務なんじゃ…」
アンゲリカ・アマンが言った。
「…………」
シュテファニー・ハンフシュテングルは何も言えずに難しい顔のまま黙っている。
ローズマリーは椅子へ座った。
アンゲリカは書類を折りたたんだ。
それぞれの動作は重々しかった。
そこに女の声が聞こえた。
「ごめんごめん、ちょっと、いい……?」
声がした方に四人は振り返った。
すると、四人は会堂の出入口に立っている女性を目にした。
片目を覆った女性は、ゆったりとしたマントをその身へ巻き付けている。
「…せんせぇ!!」
ローズマリーの声に片目の女はにっこりと微笑み、会堂の扉を閉めた。
ローズマリーは立ち上がり、女の前まで急いだ。
アンゲリカとシュテファニー、エーファもそれに続いた。
女は四人へ進んできた。
女が歩くたびに心地よい音が木の床に響く。
会堂の出入口と教壇のほぼ中間で、女と四人は出会った。
女「…任務の内容、聞いた?」
アンゲリカ「はい。今、聞きました。初任務なのに…責任重大で……」
シュテファニー「私が、警備隊の長(おさ)に命じられました…」
女は笑顔をつくった。
「おめでとう、シュテファニー」
ローズマリーは泣きそうな声を出した。
「せんせ〜、あたし、不安で不安で…」
女「教官長、なんか言ってたの?」
アンゲリカ「アタシたちの失敗は騎士団に降りかかるものだって……」
女「うふふふ…。やっぱり、そう言ったか。…気にすること、ないよぅ」
エーファ「…いつもと変わらず、お話は長かったです」
女「うん。……多分、シュッツバールさんからは…今まで通りにやればいいとか、言われたんだろうけど…あなた達は……自由にのびのびと、好き勝手にするといいよ〜」
「「「「…へっ?」」」」
四人はぽかんとした。
女「この城を出たら…定刻に起こされることもないし、消灯時間に縛られることもなくなるんだよ〜。思う存分に楽しめばいいじゃない〜〜」
ローズマリー「えええぇぇぇ…??」
エーファ「…逆転の発想、ですか?」
女「そう。……まさに一挙両全(いっきょりょうぜん)!!」
「…!…!…!」シュテファニーはまばたきを繰り返している。
ローズマリー「……た、たしかに…これは…好機、かも…」
アンゲリカ「………先生の…言う通り…だ、わね……」
「ね〜〜。そうでしょ?」
言ってから、女は笑った。
四人も続けて笑った。
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