四つの結晶(5)

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四つの結晶(5)

先生「……。火のあかし。……すさまじい勢いで燃え広がる火をすぐに止めることは、誰にもできません。火は全てを焼き、焦がし、形あるものの上を蹂躙(じゅうりん)します。その力たるや、他の追随(ついずい)を決して許しません。怒り狂った火の前では、なにものも歯が立たないのです」 「火は自らが覆ったものをすべて同じ姿へと変形、変質させます。……存在自体が純粋な法則そのものの火ですが、単純に破壊的・破滅的なだけの害悪というわけではありません。火が発するもののひとつは、熱です。近すぎるとただ熱いだけですが、適度な距離を保つならば、これはとても心強い味方となります。それを利用したものが暖炉や焚き火です。これが無かったら、寒さをどう凌(しの)ぐと良いでしょうか。また、食べ物を加熱する際も、火を使います。このように火と我々は永遠の絆で結ばれた相棒なのです。さらに、忘れてはならないものに火が発する光もあります。……暗い道を進むとき、手にしたたいまつは、どれほどに人の心を支えることでしょう」 「……美しく、明るく、暖かく、そして強い火をあなたは宿しています。あなたがあらわす火は、あなたの笑顔なのです。漆黒(しっこく)の帳(とばり)が下りて、星が見えない凍えた夜も、あなたが側(そば)にいてくれるだけで誰もが勇気を得れるはず。……わたしよりもずっといい顔で笑えるのだから、自分を活かして。あなたがあなた自身を活かすことが、周りの人々を活かすことへとつながってゆきますよ」 「!!…ッ…せんせぇ〜ッ…」 ローズマリーは泣き出した。 先生「泣いてもいいのです。笑ってもいいのです。あなたの素直さが救いへと変わります。ただ、あなたは笑った方がみんな、喜ぶでしょう。…忘れないのよ」 「…ッ…は…ウ…はいぃ…ッ…」 ローズマリーはしゃくりあげながら、席まで戻った。 先生「…次は、地。…アンゲリカ、ここへ」 「…はい!」 横に座る二人を見たアンゲリカは、意を決して立った。 「…アンゲリカには、これを」 箱の中から地の結晶を取り出した先生は両手でそれをアンゲリカへ渡した。 「…はい」 両手で受け取ったアンゲリカは結晶を見つめた。
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