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四つの結晶(7)
先生「……。水のあかし。わたしが亡くなった夫から教えてもらったことなのですが……昔、ある学者がこんな実験をしたそうです。ふたつの同じ器に同じ所から汲(く)んできた水を同量入れます。そして片方の水には大好き、愛してるよと声をかけ、もう片方の水には大嫌い、死んでしまえと罵声(ばせい)を浴びせました。しばらくそれを続けた後、各々の器へ同じ花を一本ずつさしたところ、どうなったか。……好意の言葉を与えられた水にさされている花は長らく生き続けました。しかし、拒絶の言葉を与えられた水にさされた花はすぐに枯れてしまったのです」
「……このことから、水にも感情というものがそなわっていることが読み取れます。湖や泉を見ているとその表面にはそれほど変化は認められませんが、水中では確実に動きが存在し、水は水の運動をしています。静まり返っており、透き通ってもの言わぬ水にも、激しい情感と働きが含まれている。……そもそも、静かというのは何の反応も示さない、ということではありません。自らの想いを自らの内に抱え、蓄え、秘めている状態を静かと表現するのです」
「……あなたなら、ともすれば情に押し流され、恐ろしい行いをしてしまう人々を抑えることができるでしょう。情に引っ張り回されて、人間はとてもひどいことをし続けてきました。それはわたしだって、例外ではありません」
「……わたし、わかっていたから。あなたは、とても良い子です。汚(けが)れていない水、清い水と、全く同じ心の持ち主だもの。たくさん、周囲へ甘えなさい。誰もがそれを待っています。わたしだけではなく、みんな、あなたが大好きですよ」
「…ありがとうございます」
エーファは伏せ目で応じた。
先生「三人のことを頼みます。あなたなら、どんな人であっても預けられる。自らを知らぬ者は、世界を知らない。自らを知る者は、世界を知っています。…あなたへお願いします」
「……はい」
静かに答えてからエーファは席へ戻った。
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