妻になった女騎士(4)

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妻になった女騎士(4)

ローズマリー「……そんなッ、可愛い顔しないでよッ。…もお〜〜〜!」 エーファ「……。ふふふふ…ここまでにしておこうかしらね」 ローズマリー「あはははは…」 「なに、笑ってるんじゃ……私、あなたたちに責められると、つらいんじゃてぇ!」 真面目な顔をつくり、泣きそうなのをこらえているシュテファニーが言う。 ローズマリー「あははは…ごめん〜。…無理しなくてもいいんだからさ、たまには羽目を外してもいいじゃない…ねぇ?」 エーファ「…そう。本来の自分になりなさいよ」 シュテファニー「……!?あ…あ…!!……。あ、あなたたち…もしや……!!!」 「あははははは…さあ、ファニーちゃんの化けの皮がはがれちゃったところで……」 ローズマリーは自分の使っていた器へ酒を注いだ。 「いつもの無礼講(ぶれいこう)で、飲みなおそうよ」 エーファも置いたままになっていた器を手にとった。 「………。し、仕組んでいたの…!??」 シュテファニーは唖然(あぜん)としている。 器同士をカチャンと合わせる音が部屋に響いた。 木製の壁掛け時計がカチリ、カチリ、と時を刻んでいる。 むすっとしているシュテファニーが口を開いた。 「………謀られたわ。はじめから、なにか引っかかったもの…」 ローズマリー「そんなことないよ。あたしらは、全然これっぽっちも…嵌(は)める気なんてなかったからさ〜」 エーファ「だよね」 むすっとしたままのシュテファニーが問うた。 「……エーファが語ったウルリヒのこと、好きだったというのも…偽りなの?……言って良いことと、悪いことがあるじゃろうに」 ローズマリー「……ううん。それは、本当だよ。…あたし、ウルリヒさんのこと、想ってたんだ。……とっても良いひとだったから……。…………ッ…ゥ…ウゥ…」 涙ぐむローズマリーにシュテファニーが謝った。 「あ…ごめん…。すすす、すまんのじゃ…疑ってもうて……」 目をこするローズマリーをなでなでするシュテファニーを見ていたエーファが口を開いた。 「……いいひとはみんな、先に死んじゃう」 シュテファニー「…そ……そうとは言い切れないのではなくて?」 「経験があるから言うの」エーファは冷たい目で返した。 シュテファニー「…どういう意味なの…?」 エーファ「わたしも、お兄ちゃんを亡くしているし」 「!?…兄上を!?」シュテファニーは寂しそうな瞳のエーファを見た。 エーファ「…うん。ローズには話したけど、ファニーに言うのは初めてかしら?」 「聞いたことない…こんなに愛しとるのにあなた、私へ何も教えてくれぬし…」シュテファニーは首を横に振った。 エーファ「そう……愛してる、か。いいことを言うね。……わたしには、5歳年上のお兄ちゃんがいたんだ。わたしの家…両親の仲が悪くて……家庭環境が劣悪だったのね。……家の中はめちゃくちゃだし、子供のことなんかどうでもいいっていう親だった。…自分のことだけで精一杯の幼児的な狂った両親で。…父親と母親からは、よく手を上げられた。……両親から殴られたり、蹴られたりするわたしを…いつも、かばって助けてくれるのは、お兄ちゃんしかいなかった」 「………」 信じられない話を聞かされたシュテファニーは言葉を失ってしまった。 エーファは続けた。 「…家に、両親といても…わたしとお兄ちゃんは嫌な思いをするばかりだったから……お兄ちゃんは国軍へ入るとき、わたしとお兄ちゃんが二人で暮らせるようにって…古い借家を借りたの。……あの、両親から離れられて大好きなお兄ちゃんと二人きりで暮らすんだもの…わたし、とっても嬉しかった。けどね……初めての戦闘でお兄ちゃん達の部隊は全滅しちゃって……お兄ちゃんも…敵兵に殺されちゃって……」 「………」 シュテファニーの表情は変わらなかった。 さらにエーファは続けた。 「…わたし、両親のところへ戻りたくないから…親戚に相談したのね。……士官学校に通えるようになるまでは…わたしの母親の妹が結婚したひとがやっている工具店に住み込みでこっそり勤務させてもらうことにして……それから、士官学校へ入学して…次に騎士団へ入団した…と、いうわけなの」 ローズマリー「……兄ちゃんがいて…すでに…亡くなってるのは、聞いてたけど…親とのことは……初めて聞いた……」 エーファ「わたしの身の上話をしても、つまらないでしょう。……話したくなかった、というよりは…聞かされた方も困ると思ったから、これまで言わなかったのね」 「………あなたッ…」ぼそっとシュテファニーが言った。 「…ふふ。こんなこと、暴露してしまうだなんて…わたし、酔っているのかな。お酒はどんな種類を飲んでも酔えないのに…」 酒が入っている器を見つめるエーファの目は深い海のようだった。
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