妻になった女騎士(5)

1/1
前へ
/150ページ
次へ

妻になった女騎士(5)

「エ、エーファ…あんたッ…可愛いのにっ、ち、小さい、頃からッ…いろいろと…苦労、してんのねッ…」 堤防が決壊したようにローズマリーは泣き出した。 「…ッ…う…まったくじゃッ…」シュテファニーも目をおさえた。 エーファ「?あれ?ローズはともかく…ファニーまで、泣いているの?…どうして?やめなよ、何もならないから…」 シュテファニー「…しかしッ…つつつ、つらかったであろうな…。ににに肉親から、非道な暴行を受けていた、とは……。父上と母上から、そんなことをされるなど……到底、考えられんぞよ…。ぁ愛する兄上まで失ってしまったなどと、そうなっては身どころか、心が保たぬっ…それなのにッ…た、たった、ひとりッ…これまで…抱え込んできたのか…ッ…」 ローズマリー「エ、エーファだからッ…耐えられたんだよ…ッ…きっと…。あたしなら…どッどう、だっただろう…ッウ…うぁ…あッ…」 エーファ「……。一つ発見があったわ。…泣き上戸(じょうご)なのは、ローズだけではなかったようね」 「……ここ、これはッ…酒(ささ)による、ものではないいッ…」 手で両目を覆うシュテファニーが返した。 エーファ「…そう?……酒が入ると、ファニーが本性を現しやすくなるのは事実でしょう?」 「か、からかわないで…ッ…」 シュテファニーは目をごしごしこすっている。 エーファ「からかってはいないよ。……泣いているファニーは、真面目な顔や怒っている顔のあなたよりも、やはり可愛い。もちろん、笑顔はさらに可愛い。ユリさんもそんなファニーが好きなのだろうね。…上手に使い分けなさいよ。……恵まれてるのだから」 シュテファニー「あ…ぁ…ッ…もう、しゃべるなぁッ…」 ローズマリー「…ああッ、もうッ…酔っぱらってるしぃ…ッ…泣けてくるしぃ…ッ…今、ここに賊かなんかが、押し入ってきたら…ッ…どうしよう…ッ…ウゥ…」 「……迎え撃つべきじゃない?…武器、持っていないの?」 エーファは子供みたいに問うた。 ローズマリー「持って…ないよ…ッ…そんときは…ファニー…お得意の剣技でッ…頼むぅね…もう、もう、顔ぐちゃぐちゃ…ッ…」 「顔のことは…ッ…気にしなくても、いいでしょ…ッ…あッ?…私も、帯剣してないわ……」 シュテファニーは自らの腰に触れてはっとした。 「剣…持ってない?」ローズマリーは意外そうである。 「しッ…寝室…じゃね……」涙をぬぐったシュテファニーはドアを指さした。 「……二人とも、ないのか。変わったね、ファニー……」 外套のポケットを探ったエーファは拳銃を取り出した。 「!!…銃!?」 ゴトッと置かれた品を見たシュテファニーが声を上げた。 「アカルファン製の旧式拳銃……用意周到でしょう」 エーファは微笑んだ。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加