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妻になった女騎士(5)
「エ、エーファ…あんたッ…可愛いのにっ、ち、小さい、頃からッ…いろいろと…苦労、してんのねッ…」
堤防が決壊したようにローズマリーは泣き出した。
「…ッ…う…まったくじゃッ…」シュテファニーも目をおさえた。
エーファ「?あれ?ローズはともかく…ファニーまで、泣いているの?…どうして?やめなよ、何もならないから…」
シュテファニー「…しかしッ…つつつ、つらかったであろうな…。ににに肉親から、非道な暴行を受けていた、とは……。父上と母上から、そんなことをされるなど……到底、考えられんぞよ…。ぁ愛する兄上まで失ってしまったなどと、そうなっては身どころか、心が保たぬっ…それなのにッ…た、たった、ひとりッ…これまで…抱え込んできたのか…ッ…」
ローズマリー「エ、エーファだからッ…耐えられたんだよ…ッ…きっと…。あたしなら…どッどう、だっただろう…ッウ…うぁ…あッ…」
エーファ「……。一つ発見があったわ。…泣き上戸(じょうご)なのは、ローズだけではなかったようね」
「……ここ、これはッ…酒(ささ)による、ものではないいッ…」
手で両目を覆うシュテファニーが返した。
エーファ「…そう?……酒が入ると、ファニーが本性を現しやすくなるのは事実でしょう?」
「か、からかわないで…ッ…」
シュテファニーは目をごしごしこすっている。
エーファ「からかってはいないよ。……泣いているファニーは、真面目な顔や怒っている顔のあなたよりも、やはり可愛い。もちろん、笑顔はさらに可愛い。ユリさんもそんなファニーが好きなのだろうね。…上手に使い分けなさいよ。……恵まれてるのだから」
シュテファニー「あ…ぁ…ッ…もう、しゃべるなぁッ…」
ローズマリー「…ああッ、もうッ…酔っぱらってるしぃ…ッ…泣けてくるしぃ…ッ…今、ここに賊かなんかが、押し入ってきたら…ッ…どうしよう…ッ…ウゥ…」
「……迎え撃つべきじゃない?…武器、持っていないの?」
エーファは子供みたいに問うた。
ローズマリー「持って…ないよ…ッ…そんときは…ファニー…お得意の剣技でッ…頼むぅね…もう、もう、顔ぐちゃぐちゃ…ッ…」
「顔のことは…ッ…気にしなくても、いいでしょ…ッ…あッ?…私も、帯剣してないわ……」
シュテファニーは自らの腰に触れてはっとした。
「剣…持ってない?」ローズマリーは意外そうである。
「しッ…寝室…じゃね……」涙をぬぐったシュテファニーはドアを指さした。
「……二人とも、ないのか。変わったね、ファニー……」
外套のポケットを探ったエーファは拳銃を取り出した。
「!!…銃!?」
ゴトッと置かれた品を見たシュテファニーが声を上げた。
「アカルファン製の旧式拳銃……用意周到でしょう」
エーファは微笑んだ。
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