妻になった女騎士(10)

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妻になった女騎士(10)

「…ぁ…ぁりが、とぅ…す、すまなぁい、ことじゃ…ッ…」 シュテファニーは泣き崩れた。 「あーーーな…泣かないでよぉ…あ、あたしも…ッ……。つられて……ッ…ウッ……ゥウ……」 ローズマリーも、もらい涙を流した。 「また…?二人して……」エーファは冷静なままであった。 ローズマリー「ゥ…ッ…あ…ウゥ…エ、エーファ…もッ…たまには…泣き、なッさぁいよォッ…ッ…」 「……お兄ちゃんが死んでしまってから…泣けなくなったの。これには、わたし自身…困っている……いつか、大声で泣いてみたい」 エーファは溶けない氷塊のような目をしている。 ローズマリー「ウゥ…ッ…あぁ…ッ…かわいそ…に…」 シュテファニー「…ゃ…ゃさしぃ…の、じゃねッ…あなたたちッ…」 エーファ「ファニーだって、優しいところがあるよ。…自分で自分を理解していないだけ。……誰であっても、自分で作り出したものしか、人は受け取ることができないのだからね」 シュテファニー「…あ、ありがと…うッ…ほんに、ありがとッ…」 「ウッ…ウゥ…ついていくッ、からッ…安心ンして…よッ…ファニー…」 ローズマリーの言葉を聞いていて、エーファは話し出した。 「………ファニーとユリさんが良いと感じたことを思う存分に行なってくれればいい、とわたしらは考えているの。…だから、思い詰めないで。矛盾を抱えていたって、いいじゃない。矛盾というのは言い換えると、人間らしさなのだから。…ユリさんに甘える女の子のファニーと、剣をぶんぶん振り回して戦場を駆ける勇ましい騎士のファニーと、両方いてもいいのよ。……どちらか一方を選ぶ必要なんてないわ」 相手を見てからエーファは続けた。 「……矛盾というのは想像を生み出す。そう、神話がいい例ね。…そもそも矛盾とは何かを生み出せる母体ともなりうる。……ファニーも一人の人間なのだから……そんなに自己の存在の統合性に気を遣うことなんてないのよ」 「ぅ…うんッ…」シュテファニーはうなずいた。 「…対峙している相手が、泣き止むまで話し続けるのはかなり大変……」 ここまで述べたエーファは小さく笑った。 ローズマリー「ごめんッ…あたしッ…すぐ、泣いちゃッてッ……」 エーファ「いいよ、いいよ」 「…………」 シュテファニーは泣き止み、涙をふいている。 「ウッ…あいだッ…もたせて、くれてぇッ…あんがとッ…エーファッ……」 ローズマリーはまだ泣いている。 エーファ「どういたしまして」 「…………。…………すっきり、したわ」 湿った声でシュテファニーが言った。 「言いたいこと、言えたのかしら?」 エーファの顔が映ってる酒のビンは中身が空になっている。 「ええ……。溜まっとったものが、出ていったよう……あなたたちがいなかったら、どうなっとるのかしら、私……」 シュテファニーの顔も中身が空のビンに映っている。 エーファ「……ふふふ。何かを取り入れて、何かを出してゆくというのが、全ての創造物の本来あるべき姿であり、それを無視して取り入れるだけとなった場合…機能不全を引き起こし、強制的に奪い取られる、という法則が自然と機能するのだって」 「………。そうなん??…エーファは、教師に向いておるのう」 シュテファニーは感心している。 「…ッ…よしッ…おわりッ…もう、泣かないッ…」 ローズマリーはようやく泣き終わったらしい。 エーファ「いつも…わたしの分まで泣いてくれて、疲れるでしょう」 ローズマリー「いや〜……泣くとさ…気が晴れるっていうの?…疲れるってことはないんだ」 シュテファニー「…いわゆる、ガス抜きであろう」 ローズマリー「そう、そう」 エーファ「…いいな。そんなのすっかり忘れちゃったよ」
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