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関係
ドサッドサッと音がした。
若い男が両肩に交差させていた二つの大型バッグを床へ下ろしたのだ。
シュテファニー「…おかえりなさいませ、主殿。遅かったのう。!…その、姿で行ったん?」
「ん…あ、うん。……もう流行してないけど、この格好は便利なんだ。…全身を覆って顔を隠せるし、出会った人も道を譲ってくれる。…医療器具を入れる大きなバッグに買った物も詰め込めるしね」
若い男は杖を立て掛け、シュテファニーに振り返って笑った。
「……そうにゃの。……何を買ってきたのじゃ?」
バッグの前までシュテファニーは歩いてきた。
しゃがんだ若い男は二つのバッグを開けて、シュテファニーへ内部を見せた。
「今日は…消耗品の特売日だったので……ほら!いつも使ってる回復薬だよ!」
「……こんなにたくさん。重かったじゃろう」
シュテファニーはバッグをのぞいている。
「…重かった。液体にガラスのビンの重さが加わるので…尋常じゃない……」
若い男は自分の肩をさすった。
シュテファニーもしゃがみ、若い男の肩をなでた。
「……店に入ったら、この嘴(くちばし)は取るよ。…で、お店のポイントも貯められるようにした……これを買い物のときに出すんだけど」
若い男は上着のポケットから小さな四角い紙を取り出した。
「…印章(いんしょう)を押すん?」
紙を受け取ったシュテファニーがつぶやく。
若い男「100ルルお買い上げごとに、一回押してもらえて…それが50個になったら、500ルル分の買い物ができる…らしい…」
シュテファニー「???…あれ…?名前??」
若い男は笑った。
「偽名、偽名。…ユリウス・ファルケンハウゼンは危ないから。住所もトラグタストにしておいたんだ」
「うむ……英断だと思うぞよ」
シュテファニーは若い男へ四角い紙を手渡した。
彼が立ち上がるとそれに合わせ、シュテファニーも立ち上がった。
シュテファニー「……本日が安売りの日だと、知っておったの?」
「チラシを見たんだ。酒場の掲示板に貼ってあったやつを」
若い男はにこにこしている。
「ふ〜ん…気付かんかった……」
シュテファニーはぼそっと返した。
「……ユリしゃん、おかえり、なさ〜い!」
二人のところまでローズマリーがよろよろと歩いてきた。
「ごくろうさま」ローズマリーの後ろからエーファの声がした。
ユリしゃん、と呼ばれた若い男「あ、ただいま〜」
ローズマリー「今まで…可愛い奥様と一杯、飲んでたんで〜す」
エーファ「かなり飲んでたけれど、あれで一杯?」
ローズマリー「一杯よ、一杯!何本飲んでも、一杯!」
「…楽しそうだなぁ」若い男は二人を見て、嬉しくなった。
エーファが言った。
「楽しかったよ。…ファニー、わたしら、早めに休むよ」
シュテファニー「そうなの…???」
「?…まだまだ夜は長いでしょう……」
若い男が言うと、エーファはほがらかに返した。
「いえ…ローズを連れていきます。周りへ被害を及ぼさないうちにね…」
「どーいうことよッ、あたしが暴れん坊だってこと?」
ローズマリーが口を尖らせた。
その様子を見たシュテファニーはうなずいた。
「あー…確かにベッドへ入ったほうがいいやもしれぬな」
「ええ。そういうことで…じゃあ、ファニー、ユリさん、お疲れさま。…失礼します」
ローズマリーの腕を引いたエーファはガタッとドアを開けた。
「え、なに?あたし、どうかなってんの?ファニー…お休み…ユリしゃんもね…」ローズマリーは連れて行かれた。
「は…はい。じゃあ、また明日…」若い男は手を振った。
「暴れないで、寝ろよ」
シュテファニーが声をかけると、ドアがガタンと閉まった。
ユリウスがシュテファニーへ聞いた。
「暴れる……??」
シュテファニー「酒を飲むとローズは、すぐに泣いてからんでくるのじゃ…」
「へーー。…知らなかった。……!!」
シュテファニーの顔を見たユリウスは目を留めた。
「……なに、ユーリ」どうしてかシュテファニーは照れている。
「…目が赤くなってるよ。腫れてるみたい……お酒のせい、かな?」
ユリウスは言いながらシュテファニーの顔に両手をそえた。
シュテファニー「ぁ……ぃゃ…これ、は……」
「……ローズさんみたいに…泣いてたの?」
二人の顔は近かった。
また、ユリウスの方がシュテファニーよりも僅かに背が高い。
シュテファニーは目だけをそらした。
「……ぅ…ぅん…少しだけ…そうなのじゃ……」
「…さみしかった?…ごめんね」
ユリウスはぎゅっとシュテファニーを抱きしめた。
「あ…う…ううん……」シュテファニーも抱き返した。
「次回の買い物には…私も……」シュテファニーの声は湿っている。
「一緒に行く?」ユリウスの声は優しい。
シュテファニー「……何も知らぬのね、私。…本日の店のことすら…私は知らんかったもの…。いつも、ユーリにまかせてばかりじゃ…私…」
ユリウス「いいんだ。…店に行って、いろいろ選んだり見たりするのは僕の役目だもの」
「……す、好きじゃ…」シュテファニーは小さく言った。
「ぇ…それは…僕も…ん!!んん…」
言い終える前にユリウスはシュテファニーへ口を塞がれた。
シュテファニー「……。……。…ッ…ッ…ふはぁっ」
ユリウス「……いいい、いきなり…して…くるねぇ…」
「…主殿とならば…別にいいのんじゃ…」
シュテファニーはきゅっとユリウスへくっついてきた。
「……あはははは……そうか」
ユリウスはシュテファニーの頭をなでた。
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