ひとつの満足

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ひとつの満足

濡れ縁から、西方を眺めていた親子の顔は夕陽の色に染まっている。 「…………いや〜〜〜、キレイだねーーいつ見てもさ〜〜」 「ホント〜〜!!……あーーねぇ、かーちゃん、太陽ってさ、どこの国でも同じ色してんのかなぁ?」 「うん………多分、そーだよ。母ちゃんの生まれた国でも、こんな色してたもん」 「…かーちゃんって、どこで生まれたんだっけ?」 「ん……クロイゼンって国。父ちゃんはこの国生まれだけどね。あたしはここで生まれたんじゃないんだよ」 「ふぅん……なら、かーちゃんはここに来てから、とーちゃんと結婚したってことだね〜」 「うん……。母ちゃん、この道場で初めて父ちゃんと出会って……。けど、なかなか、好きなんですって言えなくてね……」 「……へーーそうなんだ。……とーちゃんね、どんなときもかーちゃんが大好きなんだって、いつか喋ってたよ〜」 「…あ、そう?父ちゃん、そんなこと言ってたの?……んーーも〜〜う〜」 母親は我が子をぎゅっと抱きしめた。 「よ〜〜し、なでなでなで〜〜」 「……えへへへ〜〜……あッ!!あれ、とーちゃんだ!!とーちゃん、帰ってきたよ!!」 母親の腕の中から歩いてくる父親の姿を目にした娘は立ち上がり、すぐに走り出した。 残された母親はその姿を目で追った。 父親は走り寄ってきた娘を抱き上げ、二人はにこやかに話しながら、母親のいる場所へ進んでくる。 両者を見守る母親の心に、ふっと感慨が生じた。 様々なものの長い影が地面に伸びている。 周囲はどこまでも、長閑(のどか)そのものだった。 ……………………。 ………うーん…幸せだなぁ……。 ……何年も、何年も前……何かと戦ってたり、冒険してたのなんて、信じられない……。 …………うん。 …………まぁ、これはこれで……良かった人生、だよね……。 窓を通し、夕陽に照らされた火の結晶はきらりと反射していた。
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