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日暮
シーツの上にある誰かの手を誰かの両手が握っている。
小さな男の声「……んッ……あれ?ここ…は……」
大きな女の声「!…気が、ついたの!?」
ユリウスはベッドに寝ており、ベッドの横にある椅子へシュテファニーが座っている。
首を動かしたユリウスは、ぼんやりしたまま口を開いた。
「…………ファニー……?」
「ああ、そうじゃよ。わかるのね…私が。良かった……」
ユリウスの手を握ったままのシュテファニーは安堵した。
「……?……僕は…どうして…?」
ぼそぼそ言ったユリウスへシュテファニーが答えた。
「…山に住むモンスターに突進されて…足を滑らせ、高所から転落したの……」
「……。てんらく…!」
ユリウスは、そこだけ繰り返した。
シュテファニー「そうなの。…腕の骨折と頭の打撲傷は、ローズの回復魔法で治せたが…頭を打ったからか、気を失っておって……それで…ウルリヒが馬にお主を乗せて、町まで運んだ…」
ユリウス「…ローズ……ウルリヒ…」
シュテファニー「…ここは、トラグタストにある宿屋。心配はいらんぞよ」
「……僕は……どのくらい…ねて、たの…?」
ユリウスはぶつぶつと言葉を連ねた。
「丸一日ちょっと…。…今はもう…夕刻、じゃね」
シュテファニーは窓の外に目をやった。
ユリウスは何度もまばたきした。
壁にある時計を見ても、ぴんとこないのだ。
シュテファニー「……。三人がいてくれて助かった。私は…ただ取り乱して…何も、できずにいた…」
「…………。……いま…手を、握ってくれてるじゃないか…」
ゆっくりとユリウスは話した。
シュテファニー「…それぐらいだもの。私にできることといったら……」
「……そんなことない、よ。…………ファニーがそばにいたから…一緒だから…僕は……進んで…ここまで…生きて、こられたんだ……」
ユリウスはうっかりと本音をもらしてしまった。
「……ユーリッ!!」
シュテファニーは握っていたユリウスの手に自分の頬をくっつけた。
「……可愛い声、だな」ユリウスはちょっとだけ笑った。
「だってぇ…ぃゃ…い、いわないでッ……」
シュテファニーはもじもじしている。
…あははは、と笑って片手を顔に持ってきたら、自分の身体の横に鞘へ収められた短剣が置かれているのにユリウスは気付いた。
シュテファニー「あっ…それ……私が父上と母上から贈られたものなのじゃけれど…主殿へ渡すのね」
「……。…大事なもの、だろう?」ユリウスは短剣を見ている。
「いいのんじゃ。…受け取ってほしいの。ユーリになら、私は何だって…。……私の大切なものは、主殿のもの、だから……」
自らの言葉で赤面するシュテファニーへユリウスは笑顔で返した。
「…なら、もらっておくよ。……ありがとう」
「……うん。私の方こそ、ありがとぅ…」
シュテファニーの目には涙が浮かんでいる。
「……僕を落っことした…モンスターは…?」
ユリウスが思い出したように言う。
「…私は許しがたき怪物の息の根を止めようとしたのだが…エーファに引っ張られて、お主のもとへ急行したから…きっと、逃げていったのだと思う…」
シュテファニーは気まずそうに返した。
ユリウスはほっとしたらしい。
「……そうか。なら…いいや…」
「……。やさしいのぅ」シュテファニーがぼそっとと言う。
ユリウス「……こう見えても、僕はやさしいんだよ」
シュテファニー「……私も…」
ユリウス「…?」
シュテファニー「…いつも…大事にして、もらっておるし…」
「…たった一人の、僕が愛する、人だから…」ユリウスはほほえんだ。
「…!…!…!…!」シュテファニーは気恥ずかしくて黙っている。
「…………」ユリウスは彼女を見た。
目をこすったシュテファニーが湿った声で話した。
「…もしも…何かあったら…このまま、目が覚めなければ…どうするとよいのか、と……そればかり、考えておったの……」
「…相当、好きなんだ、僕のこと……」ユリウスはしれっとしている。
「ちゃ…茶化すにゃぁ…ほんに、ししし…心配してたのだぞよッ…」
シュテファニーは少し声を強めた。
ユリウス「…わかってる。顔を見たら…すぐにわかった」
「……むぅぅ」シュテファニーはふくれている。
「また…ファニーの顔が見れて、声が聞けて…うれしい…よ」
ユリウスはシュテファニーの手を強く握った。
シュテファニー「あっ…ぅん……」
ユリウス「…ファニーで良かった。何もかも、すべて…」
シュテファニー「わ…私も…ユーリで…良かった…」
ユリウス「……僕以上に、やさしいな」
「……。ユ…ユーリに、出会えたから、そーうなったんだぞよ…」
シュテファニーは顔を真っ赤にした。
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