男の苦悩を溶かす女(1)

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男の苦悩を溶かす女(1)

朝日が窓から射し込んでいる。 外からは、チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえてくる。 ベッドに仰向けで寝ているユリウスの上には毛布がかけられており、それはモコモコと動いている。 「…。…。…。……。…?…ん、ん?…ん…なに…??」 ユリウスは目をこすりながら、毛布をめくった。 「???…??…何…しているの?」 ユリウスは彼の胸に口付けしているシュテファニーへ聞いてみた。 「…んんんん〜〜起きたのか、ユーリ。お主の身体の様々な箇所へと、接吻をしていたのじゃ」 顔を上げたシュテファニーがほほえむ。 ユリウス「せっぷん…??どうして…いま、そんなこと、を…??」 シュテファニー「戦場で…傷つかぬよう、私の愛の鎧にて主殿を守護するためであるぞよ〜。…ユーリんよ、次は背面に移る。したがって、うつ伏せとなるがよろしい」 ユリウス「うつぶせ?はいめん…?…ぉおお!!?そ、その姿は…!!??」 「よくぞ、気がついたのう。…これを見たまえ、我が主殿!!」 シュテファニーは毛布から出て、ベッドの上に立った。 ユリウス「!!!う、お、おおおお…!!!な、なんなのぉッ!!も、も、ものすごい…ね……」 シュテファニー「これはな…裸エプロンいうて、愛する主人を鼓舞し、奮起させるために用いる、妻にのみ許された最終決戦用装備である。東国では、このいでたちにて…妻が帰宅した主人へひたすらにつくす、と聞いた。…なんと、立派なしきたりであろうかッ!」 ユリウス「そんな…風習が…東国に、あるのおぉッ??」 「あるッ!…東国の文化はきめ細やかで、奥深いものなのじゃ。我らも学ぶべき部分は、多かろう!…私は祖国を愛しているが、武士(もののふ)の生きる国のことも尊敬いたしておる。私の母上もそうじゃったぁッ。…よって…裸エプロンの装着へ踏み切ったのだッ!」 シュテファニーはくるりと一回転してみせた。 「お…おぉ、おわわわーッ!?ファニー…う、う、うしろがァ、丸見えだよッ!!??」 愛しい女性の大胆すぎる姿にユリウスは目を皿にした。 「何を慌てておるのか、ユーリ。…見よ、私は、これ一枚だけであるぞ。…どうか?気に入ったか、ユーリん〜。…下着を組み合わせるのは上級者らしい。しかし、それは次回を待て!…今回は初めてのことゆえ…これのみでお許しを、主殿〜」 シュテファニーはひらひらしている白色の布をめくってみせた。 ユリウス「は、はははは…はい。い、いろいろと…いいです。まことにまことにス、ステキな…お姿でありまする…」 震えてうなずくユリウスを見たシュテファニーはにっこりした。 「ユーリにしか…見せんぞよ。…案ずるな、ユーリ。いくら、妻の専用装備とはいえどもな、この姿で他の者の前へ出るつもりはないぞよ。…私はお主にだけ、見てもらいたいのだッ」 「…は、はい。何かもう…いろいろと…ありがとう、ありがとう……」 ユリウスは座った。 「……。ねぇ……ユーリ、一番、近くにいる私が…何も感じ取れなかったのは…仲間として、恥であろう。夫の異変を感知できなかったのは…妻としても…。だから……」 シュテファニーも座ったため、二人はベッドの上で向きあった。 ユリウス「……え?」 シュテファニー「無理せんでおくれ……つらいんじゃろ?…苦しいの、溜め込まんで……」 「…………」 ユリウスは話すシュテファニーの手を握った。 男の手よりも女の手は温かかった。 「……。つらい…か…。……ええ、まあ……そうだね。……うん。……はぁ……。ほら…ハインリヒ司教やザルム公爵、次には僕の兄まで……。みんな、悪魔になってただろう?……あの、聖地騎士団の長のヘルマンは言ってた。…ユリアはまだ生きている、と……。公爵と一体化していた悪魔は、すでにユリアは死んでいるって、言ってたのに……。それを信じるしか、ユリアは生きてるって信じるしか、僕にはできない……。それだけで、僕は襲ってくる者たちをファニーやオクソールさんたちと撃退してる。ユリアの件がはっきりしないまま……戦いに次ぐ戦いで……なんか、もう疲れちゃって……。ごめん……僕一人で戦ってるんじゃないのに。…はぁ〜…ファニーに嘘はつけない。…正直いって、疲れたんだ……特に心が。もう何が本当なのかどうか、わからなくて……」 ユリウスの言葉を聞いたシュテファニーは彼にくっついた。
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