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本音の女たち(1)
テーブルまで熱々の料理が運ばれてきた。
女たちは喜び、各々の皿や器を手に取った。
しばらくすると、一人の女が言った。
「……あたし、これだけであればいいや。残りは…二人にあげる……」と。
「!?どうしたん?…まずかったのか?」「…お腹の調子でも悪いの?」
二人の女は一人の女の言葉に首をひねっている。
「いやね…これはおいしいし…お腹を壊してるんでも、ないんだけど……」
歯切れの悪い女に怪訝(けげん)な顔をした別の女は返した。
「…ローズ、あなた…食欲だけは誰にも負けないでしょう。私やエーファもこの点については完敗よ。…どうしたのじゃ?私たちへ明かしてみなさい」
もう一人の女が言葉をつないだ。
「…近頃、あまり食べないようにしているよね。…知ってたんだよ」
「…………。…あのさ、あたしさ……ふ…太ったのかな。ファニー、エーファ……どう思う?正直に言ってよ…」
うつむいたローズマリーが発言した。
「「…………」」シュテファニーとエーファは顔を見合わせた。
「……いいや。そうは見えないぞよ」「うん。顔も…脚やお腹まわりも…変わってはいないし…」
シュテファニーとエーファは言ってから、ローズマリーの身体の各部位をさわりはじめた。
「…っ…ぁ…あ、は…く、くすぐったいぃ……っ…う、う、うは、あはははははっ…あはははは…や〜、こちょこちょしてぇぇ〜、あは、はははははははは…はは、あはははははは…」
笑う友人に二人の女は、ほっとした。
「…元気になったわね。あなたはこうでなければ」
シュテファニーは言うと、ローズマリーの背中をなでた。
「あははは…もう〜〜〜、二人とも〜〜」
ローズマリーの表情を見たエーファはにっこりした。
「…気にしてたの?体重のことを?」
「う、うん…。あのね…あたし自身は…別にいいんだけどさ…。その…ね…馬がね…」
ローズマリーが意外な単語を口にしたため、シュテファニーとエーファは口を揃えて返した。
「「馬???」」
少しの沈黙の後に二人は笑ってしまった。
ローズマリーも笑い出し、三人の女たちは笑い終えるまでかなりかかった。
「笑ってないで〜、聞いてよ…」ローズマリーが言う。
「ごめん」「話してみるのだ」
エーファとシュテファニーは口を閉じた。
「…ぇっと…あたしが馬に乗ると……馬がね…あたしの方を向いて…ブルルルルゥ、あ〜あ〜やだやだって、顔してさ……。それが一頭だけじゃないんだよ。どんな馬でも……。みんな…嫌そうな感じで……。あたしを乗せるとさ……」
ぼそぼそ話すローズマリーへシュテファニーは、呆れ顔をつくった。
「そのような…些細(ささい)なことで、憂えておったの?」
「だって〜、だって〜、だって〜〜」
唇をとがらせるローズマリーを見たエーファは、シュテファニーへ述べた。
「…悩み、というのは人それぞれで異なっているのだから…。そんな言い方をしてはいけないよ、ファニー。一概に決めつけてしまっては、ならない」
「す…すまぬ……ごめんね……」シュテファニーはローズマリーに謝った。
「むぅぅぅぅ〜〜ん」ローズマリーの唇はとがったままである。
「……いつから、馬がさっき言ったみたいな反応をするようになったの?」
エーファはスープが入っている器を持った。
「えーと…そう、だなぁ……。先月の…終わり、くらいから…かな?……どうしてなのか…わからないんだけどさ……」
ローズマリーは考えながら返答した。
「……太ってはおらんし」
シュテファニーはローズマリーの腹部を揉んでみている。
「何か…変わったこと…ある?わたしらに隠していること、ある?」
エーファは言いながら、皿の上の料理を口へ運んだ。
「……わかったぞ!便秘しとるのでは?」
シュテファニーが真剣な表情で聞くや、ローズマリーは即答した。
「してない。毎日出るもん」
「……。ここで言う必要はないでしょう」
情を感じられないエーファの声にシュテファニーとローズマリーは、しゅんとなった。
「ご、ごめん…なさい…」「すまん…今のは私が悪かった…」
「……」黙ったままのエーファへローズマリーは言ってしまった。
「ねぇ…いま思ったんだけどさ、エーファが母親になったら…子供に厳しいんだろうねー」と。
「……」シュテファニーは言葉を失った。
「……。わたしは母親になる気なんてないよォ。第一、わたしが幼い子を虐げているのをアナタは一度でも見たこと、あるのかしらァ?…どこにそんな事実があるのォ?……なぜ、そう言うのォ?」
エーファは恐ろしく低い声で返した。
「……ま…まあ…。は…話を本題に戻そうでは、ないか…。なぁ…?」
シュテファニーはエーファの作り出した雰囲気におびえている。
「う…うん……そう……だ、よね…」
ローズマリーも理性的な友人が気分を害したのを理解したらしい。
「……。…近頃、変わったことといえば…ローズ…香水つけているじゃない。新しいやつ…買ってきた〜って、わたしに見せびらかしていた…」
人形のような顔のエーファが言い出した。
「香水……?」シュテファニーはローズマリーを見た。
「あ〜〜、アレね。でも…香水で馬が?」ローズマリーが言う。
「……香水をつけ始めてからではないの?馬がローズを嫌うようになったのは」
エーファはぶっきらぼうに言ってから、熱いままの料理を口へ入れた。
「……。そうかも」ローズマリーがつぶやく。
「……どんな香水なのじゃ?名称は?」
シュテファニーはローズマリーの香りを確かめた。
「ん……。なんだっけ?忘れた……アカルファンからの輸入品でさ……」
ローズマリーは椅子の近くへ置いていたバッグの内部をごそごそとさぐった。
「…高価だったらしいね。…99000ルル?」
エーファの声にシュテファニーは耳を疑った。
「……キュ、キュウマン、キュウセン…ルルウウウッ!!??」
声を上げるシュテファニーにローズマリーは「そうだったっけ〜?…ほら、コレ、コレ」と言い、美しい色をしている不思議な形状の小ビンを二人へ見せた。
エーファはちらりとそれを見てから、食べるのを再開した。
シュテファニーは小ビンをローズマリーより受け取って、見つめた。
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