流れ

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流れ

「……あーー……また、こんなところにいた…………」 かすかにきらきらと輝く川面(かわも)をところどころにヒビが入っている古い石造橋から見下ろしていると、背後から青年の声が聞こえてきた。 「………………………………」 「……どこにもいないから、もしかしたらって、来てみたら……。…な、なんとか言ってくださいよ!」 青年は進んできて、女の横に立った。 「……………ああ。………わたしがここにいるのを知っているのは、君ぐらいだね……」 女がぼそりと返すや、青年は「き、聞こえてるんじゃないんですかぁ……もうッ……」と述べて、川面を見た。 「……………………」 「…………はぁ……あのーーなにが、楽しいんですか?こんな、川の、水の流れなんか、見てて……」 気になる女の横顔を盗み見ていて、青年は困ってきた。 「…………なんだって、変わってゆくっていいなって思うの……別に愉快だから、見ているわけじゃないんだよ……」 「……。…えーと……母が捜してました。王家の方がいきなりやって来て……それで、他の騎士団との合同軍事演習をやることになったって……。でも、なにをどーするといいのかわかんないから、こーいう面倒なことは、エルナに任せるに限るって……」 「……へぇ。信頼されているんだね、わたしは」 「そりゃそうですよ……」 「……お父さんは?団長は?出かけているの?」 「……い、いますけど……母と一緒で、どうしよーどうしよーって…困ってて…。役に立たないんです。…エルナさんほど、何にでも対処できないんですよ、父も母も……。父なんて特に……。ただ、団長をやってるだけで……魔法は使えないし、剣術も剣技もろくにできないし……」 「………そう。いや、それは知っていた。……わたしと初めて会ったとき、いくつだったか覚えている?」 「……えっ!?………ぼ、僕が……ですか?」 「うん……わたしが聞きたいのは、あなたしかいない、若者よ」 「…………え、ええっと…………。………あーー…たしか……9歳か、10歳の頃だったような…記憶が…………」 「……今は?」 「……あっ……あ…19歳になりました、けど……」 「………。………もう、そんなに経っているのか、戻ってきて……」 息を吐いた女は握っていた水の結晶を見た。 「…………」 青年は自身の内部にわき起こってくる情感を否定できなかった。 彼女は青年の母親と同期生でありながらも、悪魔との戦いに巻き込まれ、時空を超えてきたために歳をとるのがかなり遅れている。 最初に母から紹介されたとき、澄んだ瞳を持つ理性的な彼女へ淡い恋心を抱いてしまい、今も密かにこの女性へ恋焦がれている青年は……あーいいな〜〜好きだな〜〜どうすれば、エルナさんにこの気持ち、伝えられるんだろ〜な〜と、心の中でつぶやいた。 「……」 内心を見透かしたように女は青年の方を見つめた。 透き通った水みたいな彼女の瞳に射貫(いぬ)かれた彼はどきりとした。 「……ふふ、似ている。お母さんにもお父さんにも。…子供ってこうなんだね。二人の特徴を受け継いでいる」 「…………そ、そーーなんですか…………」 相手の発言の本意がわからなかった青年は口ごもりつつ、返した。 「ええ。……お母さんの懐の深さと、お父さんの器量を…併せ持っている。……目はお母さんそっくりで、なにげない仕種(しぐさ)はお父さんと同じだよ」 「…………」 好きな人にしっとりとした眼差しを向けられ、青年は赤面した。 「……あなたが思っている以上に、二人とも素晴らしいひとだから。……将来は、お父さん・お母さんのようになるといいよ、エドムント君……」 「は……はぃ………」青年は気恥ずかしくも、素直に嬉しくなった。 「……では、わたしでよろしければ…ご両親とあなたを助けてあげようかしらね。ふふふふふ……」 年上の女は笑い、青年と橋から歩き出した。 歩く女に手を握られると、青年はさらに頬を赤らめた。
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