本音の女たち(2)

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本音の女たち(2)

これが……。 こんなものが……。 99000ルル…だと……。 ……。 売る方も売る方だが……これを買う方も買う方であろう。 ……。 ……は、ま…待てよ。 ……。 「…ローズ、ねぇ……」 ためらいつつもシュテファニーは口を開いた。 「なに〜?」 もぐもぐと口を動かしているローズマリーが返答したため、シュテファニーは思い切って聞いてみた。 「あなた…99000ルルを…持っていたのか?私やエーファと同じ金額しか…与えられてはおらぬはず。……先月分のルルが、残っていたの?」 シュテファニーは難しい顔をしていたがローズマリーはにやっと笑い、「あ、そのこと?エーファから、借りたんだよ〜」と返した。 …………。 か…かりた!???かりた……だと??? ……これは…えーと…つまり…その……。 …………。 ……な…なんという、ことだ…。 シュテファニーはまばたきもせずに黙りこんで、手のひらに載せた小ビンを凝視している。 「ねーー、これまでにさ…どれくらいのルル…借りてるんだっけ?」 「…わたしから?」 「そう」 「……。…374000ルル…ぐらいじゃないかしら…」 「へ〜〜〜。たくさんある〜。まさか…利息とかは付けられてないよね?」 「付けてないけれど」 「あんがと〜。いつか、返せたら返すから」 「…取り立てる気はないから。それが目的なら、はじめから与えてない」 「たすかる〜〜。こだわらないエーファって、いい人〜〜」 「……そうかしらね」 「うまいわ〜、この、揚げ物。…こっちのは何の肉かな?…あたしを乗せてた馬の肉だったりして…」 「……やめなさいよ」 「けどさ……馬肉、それだけを食べる店がどっかにあるらしい、じゃない…」 「……こんなのと、よく一緒にいるわ」 「え?なになに?」 「…こっちの話だよ。苦しまなかった天才はいない」 「天才??あたしのこと?」 「……好きに解釈しなさいよ」 二人の会話を聞いていたシュテファニーは立ち上がって、両手をテーブルについた。 彼女が勢いよく立ち上がったので、椅子は床にガタンッと倒れた。 ガッシャッ!!と、テーブル上の食器が鳴った。 「ば、馬鹿ものがぁぁッ!!!お前ッ!!!ど、ど〜いう感覚をしとるのだあぁぁぁ〜ッ!!!」 ここって戦場だったのか、と友人が感じてしまうほどにシュテファニーは怒鳴った。 店内にいた客と店員もその大声にびくっとした。 「……び、びっくり……した……。なに!?どしたの?ちょっと…。料理が美味しくなかった??ん、あれ??…ファ、ファニー…泣いてんの??」 ローズマリーは隣で立っている女の目から流れているものに気付いた。 「……な、泣かずにいられようかッ。お前の…所業を知って、悲しゅうて泣いておるんじゃ!!……。お前…どうして…どうして…。そんなに…愚か…なの、じゃあ…ッ…馬鹿…ッ、んん……」 大声を出しながらもシュテファニーは泣き始めた。 「???おろかぁ??…あたしが?」ローズマリーはぽかんとしている。 「あなたの、他に…ッ…誰が、おるのかッ……ん…ッ……どう、してッ…なの…ッ…ッ…ローズ…そ、んなッ…い、生き、かた…しか…ッ…できな、いのよッ…ッ…ッ……」 両腕を交差させて顔面を覆ったシュテファニーを誰もが見ている。 そこに一人の男が急いでやってきた。 「あ……あの…お客様…。何か…不都合がおありでしょうか…?」 濃いヒゲを生やした男は、恐る恐る声をかけてきた。 どうやら、この店の長らしい。 「…問題がおありでしたら…お料理を別の品と、お取り替えいたしますが……」 男は手にした布で汗をふいている。 エーファが返した。 「…驚かせてしまって、すみません。この二人はよく喧嘩するのです。注文した品はおいしいです。わざわざ、ありがとうございます」 「あ…そう、です…か…では……」 男は一礼して、立ち去っていった。 「……次は、なんなのかしらね。神様の声が聞こえた、とでも言い出すのかしら?…ひとまず、座りなさい」 エーファは立ち、シュテファニーが座っていた椅子を元に戻してから泣いている彼女を座らせた。 しゃくりあげるシュテファニーにローズマリーが聞いた。 「ねえ…ねえ…なんで、泣いてんの…。ホントに神様の声が聞こえたの?…別にいいじゃないのさ。あたしがエーファにルル借りてたって…。…あたしが借りた分をファニーに支払ってほしいなんて…頼んでるわけじゃないんだし……」 シュテファニーは涙をぬぐい、言い返した。 「このぉ…大馬鹿者がッ!!な、仲間に…友人に…借財して…それでも…お前は、騎士の端くれかぁッ!!こんな…こんな…ものに…99000ルル?だと…!?お前の金銭感覚はどうかしとるッ!!こぉのぉ、うつけ者!!!」 怒号を発しながらも涙を流す女へもう一人の女はふくれっ面で反論した。 「…な、なによッ!!別にかまわないでしょーーッ。ファニーには関係ないじゃなーいッ!!あたしが欲しいものをどうやって、買おうとさ!!店から盗んでるんじゃないんだから、いーでしょ!?ば…ばかなのは、そっちじゃないの!?ファニーに…あ、あたしの何が、わかるっていうのさッ!!巨乳ばか〜!!」 顔を赤くして言うローズマリーへシュテファニーは湿った声で返した。 「黙れ!黙らんか!……この香水の装備効果は、何?この…香水には、いったいどんな装備効果が?」 「そ、装備、効果ぁっ!?……そーいうのは…ない、よね?」 ローズマリーはエーファに確認をとった。 「うん」すぐにエーファはうなずいた。 「な、何ッ!?ないじゃとぉッ???」 シュテファニーはぎろりとローズマリーをにらみつけた。 「け、けれど…その香水には男をひき寄せる成分がたっぷり含まれているとか…箱に印刷されていて……」 ローズマリーはシュテファニーの形相(ぎょうそう)に怖気付(おじけづ)いた。 「……。……あぁ、お前……ほんに、真の意味で…狂っておるのか。多額のルルを…男をひき寄せるためだけに…使用するとは…。しかも…お前の言う、その成分とやらの…確約はどこにもなかろうに。仮にも戦士であるならば…それを装備して攻撃したのなら、相手を一撃で倒せるような品を求めよ。……それが、こんな…こんな…愚者の極みを…大切な友人から…借財してまで……。恥ずかしい…。恥ずかしいわ。本日、こんなに悲しゅうなるとは思わんかったわ……お前は……恥の塊だ……。お前には…失望した……」 静かな声でそこまで言ってから、シュテファニーはテーブルに突っ伏し、しくしくと泣いた。
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