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透き通る自己(3)
花火を見た後、さらにエーファは続けた。
「このような言い方をしたら、語弊(ごへい)を招きかねないけれど…ファニーは…ユリさんと一緒に好きなだけ行動できる状況がうまれたときに、元来の自分へと回帰できた。…再誕というのは少なくとも、一度は死というものを経験しなければならない。この死をファニーは、これまでの自己が壊され、壊れたのは偽りの自己であると認めた上でそれを土台として成長することにより、通過できたの。……国というより、セイファン教会から大罪人として追われる身になったとしても…ファニーはユリさんとの別れを望んではいない。これは、何を示しているのか?…端的に言うなら、彼女は心地よい。新たに生まれ変わった自分が愛しい。…ユリさんを愛することは、自分自身を愛することにつながる。…先に述べた、似た者同士説を裏書きしているでしょう」
「自らの名誉を回復し、嫌疑を払拭(ふっしょく)するため、極端にいえば……ユリウスという悪鬼(あっき)に脅迫されていた。私は仕方なく…彼へ従っていたのだ。すべてはユリウス、ただ一人が為(な)した悪行!…聖なる御霊(ごりょう)の光により、私をお助けください、ソーン様!!…とでも訴えて、どこかの教会へとび込んで聖職者の前で泣きわめいたにしても…彼女にうるさい、ここから出て行け!と言う者は、まずいない。…騎士団へと教会の者が連絡をとれば、さらにファニーの身の安全は保障される。…わざわざ自ら出頭してきた重要参考人を即座に処刑したりはしない。教会側にしても、騎士団側としても、彼女から聞き出したいことは山のようにある。騎士団にはアンが単身、帰還しているはずだけど…アンよりもさらに詳細な証言を引き出せるのは確実なファニーを、一刻も早く殺めようとする者は少ないはず。もちろん、ファニーにいえることは、わたしらに対しても同じことがいえる。……国内を逃げ回り、襲ってくる相手を撃退するより、騎士団に帰投して保護を願ったほうが、わたしらは安全なんだよ。何からも誰からも頼まれていないわたしらが自発的に屋敷へ行ったわけではない。騎士団という組織がファルケンハウゼン家からの要請を受け、わたしらを屋敷へ派遣しているのだから、仕組みとしてそうなるでしょう」
「…まぁ、もっとも、新旧二種類のファニーが完全に統合されるには、まだ時間を要するとみて間違いない。ファニーの不統一な口調からして、これは論を俟(ま)たない。……ファニーは保身のため、いくらでも嘘をつける。だけど、それをしない。ここに彼女のたくましさと気高さと神聖さを見つけられる。別な表現を借りるなら、これは…シュテファニー・ハンフシュテングルの魅力に他ならない」
エーファが口を閉じると、バーンッという音が鳴り、花火が夜空を彩った。
「…………。…………そ、そこまで……は……き、気付かなかった。エーファ…ほんと〜に…よ〜く、観察してる…ね……」
ローズマリーは驚愕(きょうがく)し、相手へ畏怖(いふ)の念を抱いた。
「思っていたことを言っているだけだよ」エーファは微笑んだ。
長い長い返答であったが、耳障りではなかった。
水の流れる音や風の吹く音と全く変わらずに、ローズマリーの耳へ響いてきたのであった。
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