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透き通る自己(4)
……………………。
……………………。
……あたしが…今日、考えていた…コトも…見透かされているかもしれない。
…あんな、あんな…コト…も……。
……………………。
ローズマリーは黙って空を見ていることにした。
考察するのが得意なエーファも口を閉じて、空を見ている。
花火は次々とあがる。
宿屋の外からは子供たちの歓声が聞こえてくる。
酒に酔った男や女も声を上げて、笑っているらしい。
ローズマリーは気まずくはなかったが……落ち着け落ち着け、冷静になれ冷静になれ、と自らへ言い聞かせようとすればするほど、自らの存在のみじめさに困り果てた。
顔全体を紅潮させ、瞳にうっすらと涙をためて、静かに呼吸しようと努力しているローズマリーへエーファが声をかけた。
「……どうしたの?静かになったと思ったら…泣きそうになっているけど?」
ローズマリーは隣にいる友人を見た。
小粒の涙がぽろり、と頬を伝わった。
「?…悲しいことでも、思い出したの?」
エーファはそっと友人の涙を拭いてあげた。
「あぅ…あッ…あの…エ、エーファ…どうしよ…あぅ、ぁの…あたし……」
ローズマリーは自分自身が愚かしく、悲しくも悔しくも切なくも感じた。
「なにが…??…花火のせいで……目が痛くなった?」
エーファはローズマリーの手を取った。
しっとりと汗ばむ手に冷たい手が重なる。
「…うううん、ちがぁうぅ…。えっとえっと…あたし、いつまでも恋人できなくて、さみしくて…その…今日はね、特に変な気分になってて…一日中…いろんなコト考えちゃってぇ……。か…考えててぇ……」
ローズマリーは涙をぬぐいながら、白状した。
「……変な気分……。……そうか…それで…。なるほど。だから…ははーん、なるほどね。うん、うん。…そうだったんだ」
エーファは大きくうなずいて、笑顔をつくった。
彼女の笑顔を見た瞬間、ローズマリーはすさまじい安堵感(あんどかん)に満たされ、彼女へ抱きついた。
雪山で遭難し、もう倒れる寸前に人が建てた小屋を発見したかのようであった。
山小屋の戸を開けたところ、なんとそこには古くからの親友が座って火を焚いており、「おや、ローズマリーじゃないか。こんなところに…どうしたんだい?さあ、小屋へお入り。あたたまって、食べ物も好きなだけ食べるがいい」と、勧めてくれたのに似ていた。
「エ、エエ…エーファ…。あたし、ばかみたい……ばかみたい…いっつも、いっつも、空回りばっかり、してる…。……あたし…いったい何、やってるのかなぁ…」
ローズマリーは大好きな友人へ抱きついたままで内心を吐露した。
隠すことなど、もうできそうにない。
「……。…空回りではないよ。……さみしいのは、わたしも同じ。ファニーとユリさんが仲良くしているのを見ていたら……そうなる。…わたしがもしも、ファニーだったらどうだったのか、と思うたびに…胸がつらい」
エーファは優しく述べてから、ローズマリーを抱きしめ、その頭をなでた。
「エ…エーファぁ……わかってくれるぅ、のぉ…」
あふれ出るものをとどめられないローズマリーが声を出した。
バーンッと、空では花火があがった。
「…………うん。……ファニーが急劇に変化したのをわたしらは目のあたりにしているし、ユリさんを愛しいのはローズもわたしも同じ。……ローズの気持ちはよくわかる……」
エーファは静かな声で言い終え、空を見た。
「……嫌わない?ばかな、あたしのこと、好きなままでいてくれる?」
ローズマリーは聞いてみた。
エーファは返答した。
「うん。嫌わない。わたしの大切な…友達だもの。…ローズだけではないよ。…ファニーもユリさんもオクソール様も。アンをはじめとして…騎士団のみんな。ジークルーン先生、教官たち…。…みんなの気持ちもわかる。みんなの胸の奥底で生じる違和感は正しいものだよ。……偽って、すまない、とは思っているの。申しわけない…とも思うの……」
……???
エーファの言葉の深意が、ローズマリーにはさっぱりわからなかった。
ただ、彼女にくっついていると…ローズマリーの内部へ生じた炎は小さくしぼんでいき、それは煙を上げて消えていったのだった。
炎の消失はローズマリーが「何のことを言っているの?」と考えている間に起こった。
花火の打ち上げは終了したため、外からはぞろぞろと歩いてくる人々の声が聞こえてくる。
海の方角から歩いてきた人の群れは町の内側に進んでゆくらしい。
「…………二人だけの秘密が、また増えたね」
エーファの言葉にローズマリーは赤面するしかなかった。
「……うん」ローズマリーはうなずいた。
「…誰にも言わないで。内緒にして……」
ぼそぼそ言うローズマリーへエーファは笑った。
「生まれ持っているものは、変えられないよ。……素直に口に出せるローズが…わたしは、すき。……ローズに会えて…わたし、うれしい」
「……。あ…あんがと。…大好き、エーファ」
ローズマリーとエーファは手を握りあった。
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