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女性たちと僕(2)
あれは…そう…たしか……クスナーグ地方でのことだった。
人間やモンスターが襲ってきて、様々な場所で戦っているので、どこであったことなのか、よく忘れてしまう。
遭遇したモンスターの集団と戦闘を行なっていたユリウスたちは草原が途切れ、切岸(きりぎし)の下にはすぐ海が広がっている地点まで戦いながら進んできていた。
海側へとこちらを追い込むようにモンスターたちは攻めてくる。
多分、人間を海に落としてしまおうとたくらんでのことなのだろう。
強風を受けつつも、ユリウスと一人の女は全身が長い毛で覆われたモンスターを倒した。
そのとき、別のモンスターが突進してきた。
崖の上で転倒した女めがけて、モンスターは頭の角を突き刺そうとした。
ユリウスは叫びながら、モンスターに直接ぶつかっていった。
オッ、オオ、オオオオーン……。
モンスターは、懸崖(けんがい)の下まで転がり落ちた。
そして土の崩れる音と風の音、ドッシャッ!!という音が下方から響いてきた。
ユリウスが恐る恐るそれを見下ろしていると、地面にしがみついている彼へ女の声が聞こえた。
「助かったよ…ユリさん…」色白の女はユリウスを立たせてくれた。
「い、いやいや。僕も…とっさに…どうすればいいのか、わからなくて…体当たりしちゃった…」正直に言う男に女は小さく笑った。
「ユリさんがそうしてくれなければ…わたしは突き殺されていた。…!!!」
女は話を切り上げて、片手に持っていた拳銃を発射した。
弾丸は急降下してきた、空を飛ぶ小型モンスターを直撃する。
バッシャッ!!と、白い水しぶきが羽を持つモンスターを隠す。
「……。やるなぁ、エーファさん……」
ユリウスが言うや、名前を呼ばれた女は微笑んだ。
「お互いさま、なんて言わない。わたしが先に救ってもらったもの…」
女と男はしばらく見つめあった。
ユリウスは全幅の信頼を寄せている1歳年上の女を気になっていた。
一方、エーファはしっかりと年下の男の瞳を見つめ、そっと彼の手に触れた。
「……エーファ、さん…」
ユリウスが言い終えるよりも先にエーファは大きくうなずいた。
「うん。わかるよ…ユリさんの気持ち。わたしも、同じなの……どんなときも感じてる。あとで…町に戻ってから……」
普段とは、彼女の声音(こわね)が異なるのにユリウスは気付かなかった。
「…おおーい、ユーリ…エーファーーッ!!そっちは、どうじゃーー!?」
別の女の声に男女は振り返った。
鎧姿の女が手を上げて走ってくる。
「……あんなに離れてたのか…」ユリウスが言った。
「……どうじゃってェ……わたしたちの邪魔をするんじゃないよォ…腹立たしい女だねェ……」
揺れる焔(ほむら)よろしく、一定しないエーファの声にユリウスは笑ってしまった。
エーファもクスクス笑い、普段通りの顔をつくって、手を振った。
ユリウスはさらに別の記憶の引き出しを開けた。
あれは…えーーーと…トイズリット地方の……原野での戦いだった。
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