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脇の下を持ってふわりと抱き上げられる。ナージが言い切る前に成功だと気付いたリュヌは舞い上がった。嬉しくて尻尾がふりふりと揺れてしまう。
獣人は発情期があるため、婚姻していなくても性行為は一般的な営みのひとつだ。リュヌのように特殊な事情がない限り。
男の猫獣人に発情期はないが、相手の発情に釣られて発情する性質がある。つまり相手さえ発情していればいつでも性行為可能なのだった。
市井でモテる人はかなり経験豊富だという。ナージは魅力的だから絶対にそっち側だ。
豊富な経験を持っているなら、リュヌに興奮してさえくれれば、あとは入れて出すだけ。簡単に遂行できそうだと思った。
ナージはリュヌを子どものように抱えたまま歩いていた。店の二階を使っていいと店主は申し出たが、ナージは断ったのだ。
フードをすっぽりと被せられて周囲は見えないが、リュヌも彼の発情を促すため首に擦り寄ったり尾を腕に巻きつけたりしていたからそれでよかった。
「そ、それ……やめてくれ。我慢できなくなる」
「発情する?して貰わないと、困るんだけど……」
「してます!!!」
スンスンと首筋から匂いを嗅ぐ。確かに、ほんのりと感じるものがナージのフェロモンかもしれない。思考を芯からとろっと蕩けさせようとするような……
フェロモンに決まった匂いはないが、相手の理性を溶かし本能のままに行動させようとするのがフェロモンである。
いつの間にかぼうっとしていたリュヌはぽすんと背中からどこかに着地した。その拍子にフードが外れ、視界が明瞭になる。
ここはベッドの上のようなので、どこかの寝室にいるらしい。宿なのか家なのか、広く調度も豪勢に見える。先ほどの酒場と比べるとすごく清潔感があって、だからここにしたのかもしれない。
「ナージ……顔ちゃんと見せて」
「覚悟しろよ」
ナージの顔はもう赤くなかった。発情していると言ったわりに、緊張を孕んだ表情だ。
なにを覚悟しろというのか、その理由は彼がマントを脱いだことですぐに分かった。
「わっ。変な耳」
「俺の正体が分かったか?」
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