美人すぎる第四王子は嫁入り前に処女を捨てたい

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 それにあの目がいい。吸い込まれそうなグレーの瞳はリュヌの色にも似ているけど、もっと深い。それなのに強い光を孕んでいて、全てを見透かされているような不思議な感覚に陥るのだ。 (……たぶん、僕のことも憎からず思ってる)  リュヌは初めて自分の美貌に感謝した。他人からの称賛や贈り物なんて別に嬉しくなかったが、好みの男に好かれるなら万々歳だ。  あの顔をちゃんと見てみたい。ベッドに連れ込めば全てを晒してくれるはず。自分が頼めば、きっと……  リュヌはここへ来てやっと、本来の目的を思い出したのだった。    結婚相手もあんな感じだったら嬉しいのに。ひょろひょろ弱そうな人間だなんて……まぁ政略結婚に自分の理想を求めること自体、間違っているのだろう。  店主がドンと目の前に果実水を置いてくれる。ぽかんと見上げても、彼はリュヌの顔を見もせずに去っていった。目つきは怖いけど、嫌な感じはしない。  高めの椅子の上で、足をぷらぷらさせながら待つ。子どもだと思われている感が否めないが、ありがたく果実水を飲んだ。  なんだか……ドキドキしてきた。リュヌは今日、処女を捨てようとしているのだ。つい食い気に走ってしまったが、ちょうど良さそうな男も見つけた。  ナージに恋人や伴侶がいないといいのだけど。さすがに人様のものを奪う趣味はないし、移り気な男も嫌いだ。選り好み激しいリュヌのお眼鏡に叶う男。ナージに出会えたのは奇跡的な幸運とも思える。  他国に行って婚姻してしまえば、こんな風に王宮を抜け出したり自由に振る舞うことはできないだろう。リュヌは自分が母国の評判を背負うことになるのだとよく分かっていた。  ――最後のチャンスを、逃してはいけない。  ナージが戻ってきたとき、リュヌは覚悟を胸に宿していた。 「遅くなって悪かったな。ほら、肉串だ……」 「よしっ。行きましょう!」 「はっ?どこへ……って、肉はいいのかよ!」  リュヌの関心はとっくに肉を離れていた。スタッと椅子から降りると、ナージのマントを引く。  眉を上げて驚く顔は思ったよりも若いけど、やっぱりこの人がいいと思う。  
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