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「そんなことより!僕を抱いてください……ね?お願い」
「ちょっ、ちょっと口を閉じろ!……何を言っている?」
「だから抱いてって……」
「わー!!!」
大きな手に口を覆われ、店の隅に追いやられる。自分のせいだと分かっているものの、面白いほどの焦りようだ。
別に店のどこにいたって他の客はいないし、店主にはとっくに聞こえているだろう。リュヌははっきりと告げたのだから……自分の望みを。
「……だめ?」
「首を傾げるな。見上げるな〜!なんだ。なんでなんだ?俺に一目惚れしたってわけじゃ……なさそうだな」
「処女を捨てたいんです!結婚する前に……」
「しょっ……処女ぉ……!?」
正直に言葉を重ねる。
結婚が決まったけど政略結婚だし、相手は得体の知れない人間だ。なよなよとした男に自分の処女は捧げたくない。
最後の自由を得るため、好みの――ナージのような――獣人に処女を奪ってもらってから嫁に行きたいのだと。
自分でも話しているうちに焦燥が募り、切実な響きが声に乗った。
単純な思いつきの行動ではあったが、リュヌの見た目にしか関心のない周囲の人々や、同じようになるだろう未来の結婚相手に、ずっと意趣返しをしたいと感じていたのだ。
ナージは顔を顰めている。だめ……だろうか。ここで駄目ならもう帰るしかない。どうせ外出はバレるだろうし、もう二度とこんなチャンスは訪れない。
閨教育で学んだなかに色仕掛けはあったかな……と頭の中で考えながら、まずボディタッチしようとリュヌはナージに抱きついた。
胴に飛びつくとその逞しい身体がよくわかる。リュヌが小さいから頭はその胸までにしか届かない。
「わぁ!?や、やめろ!俺は……」
「恋人や伴侶はいる?ナージ、お願い。好きにしていいから」
「いや、まだいないが……好きにって、リュヌは本当に俺でいいのか?」
「僕は守ってくれる強そうな人が好きなの!ナージがいい」
「なーるほど、な…………いいだろう。婚前交渉、しようぜ」
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